破壊と復興。戦後史と重なる存在を日本画で表す
不二(ふじ)とキンゴジ
村上裕二さん(日本画家・58歳)
村上裕二さんは「日本画家」として活動している。そもそも、日本画とは何か。「日本画は、日本に長く続く大和絵の現代版のようなもの」と村上さんはいう。
「大和絵のルーツは、中国の水墨画と宗教画です。これらの絵をそのままそっくり取り入れるのではなく、日本人の好みを付加しました。そうですね……中国の絵がクラシック音楽としたら、日本画はジャズでしょうか。茶目っ気と品があります」
日本人好みの材質や仕上がりを大切に、これまで画家たちは日本画を描いてきた。日本画は、時代を切り取る絵でもあった。
「時代ごとの日本人の生活を感じさせるものが、日本画です。時には伝記や教えを加えて画題を選びました」
つまり、「今の日本とは何か」という「問い」を抱え、答えを求め続けているのが日本画家である、と村上さんはいう。
ゴジラは日本人の祈り
では、「今の日本」を象徴するものとは何か。村上さんにとって、それは「ウルトラマン」であり、ここで紹介する「ゴジラ」であると語る。
「私は戦争を知りません。戦争を知る世代にとって、放射熱線を吐きながら街を破壊していくゴジラの姿は、B29の空襲と重なるかもしれません。また、ゴジラに立ち向かう姿は、戦後の瓦礫の中から復興した不屈の日本人、という物語と重なるのではないでしょうか。破壊と復興。ゴジラは、戦後史と重なる存在です」
ゴジラの吐き出す放射熱線は日本が唯一の被爆国という歴史とも重なる。
「だからこそ、日本人はゴジラを創造できたのではないでしょうか。日本人の深い傷を、娯楽という形に溶け込ませながら愛してきた。ゴジラは、日本人にとっての“祈り”の存在なのかもしれません」
上の作品をご覧いただきたい。富士山を前に、それに劣らぬ迫力で、ゴジラが屹立する。
数多の日本画家たちが描いてきた霊峰富士と、世界に知られる怪獣ゴジラ。どちらも日本を象徴するものであり、知名度も高い。こうした対象に対し、村上さんは真摯に向き合ったといえる。
「ゴジラやウルトラマンを描くには著作権など、超えなければならないことも多かった」と村上さん
は振り返るが、これら迫力満点のゴジラやモスラなどの作品は、美との格闘の痕跡だ。
三越創業350周年
村上裕二 日本画展
ゴジラの世界
日本橋三越本店(東京)の美術特選画廊を、村上裕二さんの「ゴジラ」が占拠する。「村上裕二 日本画展 ゴジラの世界」へ足を運び、「日本画」の技法だからこそ描けたゴジラの迫力とその勇姿を、目にしてみてはいかがだろうか。
会期:2023年6月28日(水)~7月3日(月) 10時~19時(最終日は17時終了、無休)
会場:日本橋三越本店本館6階 美術特選画廊
ギャラリートーク:7月1日(土)14時より(無料)
※諸般の事情によりイベントが変更・中止になる場合がございます。
住所:〒103-8001東京都中央区日本橋室町1-4-1
電話:03・3241・3311(大代表)
図録のデジタルカタログはこちら→https://my.ebook5.net/mitsukoshi/artmurakami0628/
【サライ7月号特別付録】村上裕二「ウルトラマンシリーズ日本画ポストカードブック」のご案内
気鋭の日本画家・村上裕二さんが描くウルトラマンやウルトラセブン、バルタン星人などの日本画作品をポストカードに配しました。
ポストカードは12.0×18.6cmの大判サイズ。
8枚ひと組で、様々な図柄をお楽しみいただけます。
※この記事は『サライ』本誌2023年7月号より転載しました。