西部劇をはじめ映画などでよく見かけるスキットル。実際に使ったことがある人は少ないかもしれない。ウイスキー評論家の土屋守さんがその歴史と魅力を語る。

スコットランドの男性用民族衣装である「キルト」はスカートのような形状をしている。ポケットがないため、スポーランという大きな蝦蟇口のようなポーチを腰にぶら下げる。
写真提供:Alamy/PPS通信社
ウイスキーグラスを手にしたキルト姿の男性。スポーランは動物の皮革製で、さまざまな形状のものがある。
写真提供:iStock.com/pidjoe

スキットルの起源について、じつは詳しいことは分かっていない。その手がかりとして参考になるのが、ウイスキーの起源にあると、土屋守さんは語る。

「王の命令で8ボル(約500㎏)の麦芽を修道士のジョン・コーに与え、アクアヴィテを造らせた」

これは1494年のスコットランド王室財務省の文書で、ウイスキーについて書かれた最古の記録という。アクアヴィテとはラテン語で「命の水」、すなわち蒸留液を意味し、スコットランドのゲール語ではウシュク・ベーハー。それが時代とともに変化し、ウイスキーとなったとされる。

「ジョン・コーの墓が見つかり、2011年に発掘調査が行なわれたのです」と語るのは土屋さん。

「墓の中から、オーク材で作った水筒の原型のようなものが出てきました。それを分析すると、穀物を原料とするアルコールが入れられていた痕跡が残っていました」

その木製の水筒がスキットルの原型と土屋さんは考えている。

「スキットルは、アイルランドやスコットランドでは “ヒップ・フラスク” と呼ばれています。形状がヒップ(尻)に沿うように作られているからです。フラスクとは、フラスコともいい、容器のことです。もとは丸形に近いものでした。スコットランドの民族衣装である『キルト』は、巻きスカートのようになっていますが、ポケットがついていないため、『スポーラン』という小袋をぶら下げています。そこに入るぐらいのものが最初の形ではないかと私は考えています」

スキットルの素材が木製から金属製になったのは、17~18世紀頃。当初、主流だったのはピューターという錫(すず)が主成分の合金製だったという。

「古いものはだいたいピューター製で、ヒップ・フラスク自体も古くは “ピューター” と呼ばれていました。その後、重さや強度、見た目の良さから、ステンレス製になったとされています」

当初は水筒として使われていたスキットルだが、現在のイギリスではどのように使われているのか。

「イギリス人は、ゴルフや釣り、ピクニックに携帯するウイスキーの水筒として使っているようです。また、イギリス各地の蒸留所では、定番の土産にもなっています。私も数多くの蒸留所を取材しましたが、気に入ったものは必ず買うようにしています」

土屋さんが購入したスキットルは、現在では手に入らないような貴重なものが多い。これらを紹介しながら、土屋さんがスキットルの使い方をその思い出とともに披露する。

「私はフライフィッシング(毛針を用いた釣り)をする際にスキットルを携帯します。中でも思い出深いのは、スコットランドのアイラ島にあるアードベッグ蒸留所を取材した時のことです。一般には立ち入り禁止の湖へ、特別に入れてもらえることになり、さらには釣りまでさせてもらいました。この湖の水は、アードベッグのウイスキーを仕込むために使われているので、物の試しにスキットルに入れていたウイスキー『アードベッグ』を湖の水でほんの少し割ってみると、とても美味しかった。それもそのはず。ウイスキーを造る水で割っているのですから、美味しいはずです」

アイラ島はスコットランドの西岸に連なるインナー・ヘブリディーズ諸島の南端に位置する。約600平方キロメートルの土地に、9つの蒸留所がある。
地図製作:もりそん
アイラ島南岸にあるアードベッグ蒸留所。アードベッグとはゲール語で「小さな丘、岬」を意味する。仕込み水は蒸留所の北にあるふたつの湖の水を使用。そこで造られるウイスキー『アードベッグ』は、燻製されたような香りが漂う。
写真提供:iStock.com/lucentius

現在、イギリスで販売されているスキットルには円形や四角形、楕円形など様々な形がある。ウイスキーが入る容量もさまざまだ。

「容量はスキットルの裏面に書かれていることが多いのですが、今号の『サライ』の付録は5oz(オンス)。つまり約140mLです。一般的には約160mLが主流のようですが、少ない方が飲みすぎなくてよいのかもしれません(笑)」

また、土屋さんはスキットルの手入れはどうしているのだろうか。

「私は使用後、水を入れてよく振り洗浄します。洗った後に乾かすことも重要です。昔、知人から水に卵の殻や砂を入れて洗うことを勧められてやってみましたが、上手くいかず断念しました。水洗いだけだと心配な方もいるかもしれませんが、そもそもウイスキーはアルコール度数が高いので、つねに消毒されているようなものです」

土屋さんは、口が小さなスキットルへ上手にウイスキーを入れる方法も教えてくれた。

「漏斗(ろうと)を用いて入れると、こぼすこともなく安心です。歴史を振り返ってみても、そもそもスキットルには漏斗はついていなかったのではないか。ジョン・コーの墓から見つかった水筒にはそのようなものがついていませんでした。現代では、漏斗が付属するスキットルも販売されています。とはいえ、私は紙コップの口を尖らせて入れることもあります(笑)」

スキットルで思い出を持ち運ぶ

土屋さんが所有するスキットルの数々。右上のオレンジ色の容器は、スコットランドのハイランド北部にあるグレンモーレンジィ蒸留所のもの。その前の扇形のスキットルが3つ入り、3種類のウイスキーを持ち運べる。手前の革製のケースに入ったものは、新潟県燕三条の金工職人への特注品。つなぎ目が一切ない、高い技術で鋳造されたものだ。中央のロゴ入りの円形のものは裏面がガラスで残量が分かる。左奥の水筒型など形もさまざまだ。

土屋さんが長年かけて集めてきたスキットルは、数もさることながら、形もさまざまだ。今回は、特に思い出深いスキットルをご紹介いただいた。

「私が最も気に入っているのは、スコットランドにあるグレンモーレンジィ蒸留所のスキットルです。見てください、この鮮やかなオレンジ色。容器の形は円筒形で、おしゃれだと思いませんか? しかもこれは、スキットルが3つ入るように分割されています。ケースの上蓋の内側にも書かれていますが、3種類のウイスキーを持っていけるということです。ショットグラスも付属しているので、味が混ざることもありません。スキットルのキャップも黒・白・紫と分かれている。とても優れたものだと思います。

また、革のケースに入っているものは新潟県燕三条の金工職人の方に特別に注文して作ってもらいました。そのような愛着のあるスキットルでウイスキーを持ち運べるなんて、素敵なことではありませんか? 価格が高いウイスキーだけが良いわけではありません。自分の好みにあったもの、忘れられない思い出があるもの。それがその人にとっての最高のウイスキーなのです。それが私は『アードベッグ』だった。読者のみなさんも、この付録のスキットルへ、ご自分にとっての最高のウイスキーを入れて、楽しんでいただきたいですね。それは人生に彩りを加えてくれるとさえ私は思うのです」

《スキットルにおすすめ》
外出先で楽しみたい土屋さんが選ぶベストウイスキー

フライフィッシングに携帯するのは、いつもアイラのシングルモルト(※「大麦」の麦芽だけで製造したウイスキーのこと)という土屋さん。中でも、アードベッグ蒸留所の仕込み水に使う湖で、特別に釣りをさせてもらったことから、感謝の気持ちを込めて、『アードベッグ』(700mL、オープン価格)を持っていくという。アイラ島のウイスキーのなかで、最もアイラらしいスモーキーな香りを持つ。

●解説:土屋 守さん(ウイスキー文化研究所代表・67歳)

作家・ジャーナリスト・ウイスキー評論家。昭和29年、新潟県生まれ。学習院大学文学部卒業後、足かけ5年間イギリスに滞在。日本で唯一のウイスキー専門誌『ウイスキーガロア』の編集長を務める。著書に『完全版シングルモルトスコッチ大全』(小学館)ほか多数。

『サライ』10月号特別付録はステンレス製のポケットサイズ「月の沙漠のスキットル」

ステンレスのボディに、オリジナルの月と駱駝のオリジナルマークを刻印。書斎にも映える。

9月8日発売の『サライ』10月号の特別付録は、ステンレス製のポケットサイズ「月の沙漠のスキットル」。

ウイスキーや、ジン、ウオッカなど、度数の高い蒸留酒を入れて持ち歩ける、金属製のスキットルをお届けする。

錆に強いステンレス製のボディに、月と駱駝のマークを刻印した。

デニムなど、パンツの後ろポケットに入れやすい、湾曲したボディ形状。ここから、ヒップ・フラスクとも呼ばれる。

持ち歩きに便利なミニサイズだが、容量は約140mLと蒸留酒には充分な量を入れることができる。

お酒を注ぐ際に、100円ショップなどでも売っている、小さな漏斗 (付属しません)を使うと、こぼさずきれいに注げる。

キャップは密閉度の高いネジ式。パンツの後ろポケットにすっぽり収まる湾曲した形状。本格的な大人の遊び道具である。

売り切れる前に、ぜひお買い求めください。

取材・文/服部 滋 撮影/小倉雄一郎(本誌、人物・静物) 

 『サライ』10月号
『サライ』10月号の特別付録は、「月の沙漠のスキットル」。

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※この記事は『サライ』本誌2022年10月号より転載しました。

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