仲良くしなければという無意識が家族にはあった
美代子さんはその後何度か両親の元を訪れたそうですが、それも就職を機になくなっていきます。久々に訪れたのは29歳の結婚の報告のとき。自分ではなく相手に向けられた笑顔がとても印象的だったと振り返ります。
「第三者を通して父親を見たことがなかったので、外ではそんな顔ができるんだってその時に初めて知りました。そこまで非常識な人だとは思っていなかったけど、彼を歓迎してくれた普通の父親の姿にホッとしたことを覚えていますね。彼は大学の元同級生で、卒業してしばらくしてから付き合いだした人なんですが、バツイチで。相手の意向もあって、結婚式をしないことも両親はあっさり認めてくれました」
しかし、結婚生活は6年で破綻。昨年離婚に至り、有休消化もあって大人になって初めて両親の元で暮らします。その生活で、家族関係についてわかったことがあったそう。
「離婚は性格の不一致から、ですかね。お互い我慢して合わせてまで一緒にいる意味が見えなくなってしまって。夫婦生活もほとんどなかったので、子どももいなかったから別れるのはあっさりでした。私は結婚後も仕事を続けていて、有休もたまっていたから、母親の提案もあって一週間ほど両親の元で生活しました。一人で過ごすよりも安心したい気持ちで行ったのに、そこで感じたのは、夫の時よりも強烈な違和感でした。部屋が別々でお互い顔を合わせる機会がなくても、どこかに人の気配があって気が休まらないことってあるじゃないですか。それが夫の時より両親のほうが強く感じてしまって。母親とは会話があったりするんですが、父親とは2人で話をする機会さえありませんでした。それなのにお互い意識しすぎて、居心地はとても悪かったんです」
今は都内で一人暮らしを続け、両親とは離婚後より会っていないそう。コロナ禍もあって以前よりは連絡を取り合っているとは言いますが。
「母親とは私が東京に住んでいていることもあって、コロナを心配して前より電話は多くなりましたね。でも、その場で父親と会話することはなくて、父親とは過去一度も電話で話したことなんかないんじゃないかな。そんな関係だけど、特に父親とは不仲だとは思っていません。このぐらいの距離感が一番いいんだろうなって。家族だからってそこまで一緒にいる必要はないんですよね。他人じゃないからもっと仲良くならなければと意識し過ぎてしまっていただけなんですよね。今振り返ると、両親が九州に行ったことで今も関係はこじれることなく続けられているのかしれません」
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。