取材・文/ふじのあやこ

近いようでどこか遠い、娘と家族との距離感。小さい頃から一緒に過ごす中で、娘たちは親に対してどのような感情を持ち、接していたのか。本連載では娘目線で家族の時間を振り返ってもらい、関係性の変化を探っていきます。

 「今再び一人ぼっちになってどんなに寂しい思いをしていても、両親の元に戻ろうとは思いません。父親と互いを意識しながら生活するのは無理だと思いますから」と語るのは、美代子さん(仮名・36歳)。彼女は都内でインバウンド向けのメディアを扱う企業に勤めていますが、現在は休職状態。しかし、給料の6割は保証されているそうで、貯金もありお金には不自由していないとのこと。副業は禁止されているため、時間を持て余してしまっていることだけが辛いと言います。

父親の印象は特になし。思い出すのは怒っている顔だけ

美代子さんは東京都出身で、両親との3人家族。小さい頃から母親は明るくていい意味で適当だった印象が残っていると語ります。

「母親は私が小さい頃から楽観的というか、明るい人でした。学校で友達とケンカしたことがあって、そのことを泣きながら母親に相談した時に、『明日謝ったら許してくれるでしょ』って一言をもらったことがあって。当時は確か小学校の低学年で、なんだ謝ればいいだけなんだと素直に受け入れたものの、今も記憶に残っているということはやっぱりどこかに違和感があったんでしょうね(苦笑)。その後も何度か学校のことを相談したことがあったと思うんですが、いつしか母親に言っても意味がないと学校の話をあまりしないようになっていましたから」

一方の父親のことを質問すると、覚えているのは中学生の頃からだと美代子さんは答えてくれました。

「家族で旅行に行ったこともありますし、お正月などは親族が集まっていた記憶も残っているんですが、父親のことはまったく覚えていないんです。元々専業主婦の母親に子育てを任せっきりで、口出ししてくるようなタイプでもなくて、さらに口数も多くなかったし。覚えているのは、小学生の頃からずっとピアノを習っていて、私はピアノが大好きだったから学校から帰ったら毎日練習していたのに、父親がいる週末は練習を禁止されていたことです。母親から『お父さんがお休みの日は静かにしておいて』と言われていました。普通の日だったら仕方ないにしても、発表会前でも許してはくれなくて。それなのにピアノの発表会は父親も来てくれるんです。この人は本当に来たくて来てるんじゃないんだろうなって、ずっと思っていました」

中学に入り、美代子さんは反抗期もあって両親とは顔を合わすことさえ嫌がっていたそう。高校に入り反抗期は落ち着きますが、仲が修復したのは母親とのみだったとか。

「中学になって一度何かで父親と口論になって、めちゃくちゃ怒られたことがあって。何で言い合いになったのかはまったく覚えていないんですけど、冷たい目で睨まれたことを覚えていますね。反抗期で当時は母親との仲も良くなかったから、家に帰るのか嫌で嫌で。親と顔を合わせたくなかったので、晩御飯も部屋で食べていましたね。反抗期が落ち着いてからは母親とは一緒に買い物を行く仲になりましたが、そのくらいにはもう家族で出かけることも無くなっていて、父親と何があったかなんてまったく覚えていません」

父親の独断で両親は離京。母親は私より父親を選んだ

高校も卒業間際の時に、事後報告として父親が退職したことを知ります。さらに両親は九州に行くことをすでに決めていたそうで……。

「父親は会社を辞めて、九州にいる友人がやっているお店を手伝い、ゆくゆくはもう一店舗出す時に店長を任せたいという話を受けたと言われました。私はすでに都内で大学が決まっていたので、そこから家を探して、引っ越しをして、怒涛のスケジュールでしたよ。

事後報告なのは別にいいんですけど、母親が何の反対もせず、当然のようについて行くんだってわかった時、もうすぐ大学生になる年齢なのに恥ずかしいんですが、母親を父親に取られたような気持ちになりました。父親と離れることよりも、私と離れることを、この人は選んだんだなって」

予定外の一人暮らしに新しい大学生活に戸惑っていたのは最初のほうだけ。最初は頻繁にあった母親との連絡も徐々に少なくなっていったとか。

「最初の頃は2~3日に一度のペースで連絡があったんですが、特に話すことがないんです。私はずっと同じ東京にいるし、あっちの話はなんか聞きたくないし。一人暮らしの寂しさよりも、東京にあった実家は両親が出ていく時に売ってしまっていて、もう私の家じゃないんだって家を何回か見に行った時にとても寂しかったことを覚えています」

両親が住む新しい住まいを実家とは思えない。久しぶりに会う娘にも、自分のルーティンを崩さない父親にイライラしてしまい……。【~その2~に続きます。】

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

 

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