2024年3月13日、厚生労働省年金局は『老後の生活設計と年金に関する世論調査』を発表した。これは18〜70歳を対象にした大規模調査だ。

「何歳まで仕事をしたいか、またはしたか」という問いがあり、それに対して、約4割が66歳以上と回答している。

その背景には老後資金の不安もあるだろう。公的年金以外の資産をどう準備したいかという質問には、「預貯金」という回答が67.6%と最も多かった。「退職金や企業年金」が32.9%、「NISAと呼ばれる少額投資非課税制度」が20.9%と続いた。

2025年は5年に1度の公的年金の制度改正の年だ。24年は改正議論のための財政検証が予定されている。この調査結果がどのように反映されるのだろうか。

東京都心に住む由紀夫さん(67歳)も、「仕事を辞めたあと、1年くらいおかしくなった。お節介な同級生がいなかったら生きていなかったかもしれない」と語る。

【これまでの経緯は前編で】

65歳からワンルームマンションで一人暮らし

大手商社に65歳まで勤務した由紀夫さんは、定年を迎えた後に妻と息子2人と住んでいた東京郊外の一戸建てから都心のワンルームマンションに引っ越し、別居する。引越し先のマンションは10年前の不動産投資ブームのときに購入していた。6畳のワンルームなので、住み心地がいいとはいえず、短期の入居者が入ってはすぐに出て行っていたという。

「僕が不動産投資に失敗した物件ですよ。素人が手を出してはいけない世界だと思いました。最初は快適だったんです。雑音がなく何時間も寝ていられるし、お金にも困っていないので、自由を楽しんでいました」

しかし、幸福は2日しか続かなかった。どこにも所属していないという不安感。65歳の男性がたった一人で暮らしていることの孤独が身に染みるようになった。

「一人でいると、ろくなことを考えない。仕事をしていたときの僕の時間は、未来へと流れていました。仕事は未来に向けて頭と手を動かす作業です。でも仕事から離れ1人になると、時間は“今この現在と過去”しかなくなる。あの感覚は経験した人じゃないとわからないと思いますよ。未来に引っ張ってくれる力が、外にも自分の中にも全くなくなる絶望。これは僕のような仕事人間は知っておいたほうがいいと思います」

由紀夫さんは「今」何もしないのが怖かったという。だから、ギターを買い練習を始めた。

「夢だったギターをやってみようと、動画を見ながら練習しました。1日4時間を練習時間にし、30分休憩を挟んで、2時間はドイツ語の勉強、3時間は中国語の勉強と、家にこもって自らにノルマを課し、練習をしたのです」

当時のスケジュールは、朝6時に起床、6時半からラジオ体操と朝食。7時から11時までギター、13時まで2時間の散歩。18時まで語学の習得だったという。

「ギターが弾けるようになったら、発表会をするとか友達とバンドを組むとか、そういう未来を考えなかった。目の前の時間を空虚なものにしないために、あえて難しいことに取り組む。外国語も現役時代なら“仕事に使う”という未来がありましたが、このときは時間を埋めるために頑張っていたのです」

集中するあまり、食事や入浴も忘れることがあったという。

「栄養が取れればいいと、3日間納豆のみだったこともあります。そんなあるとき、地元の同級生から連絡がありました。僕の両親はすでに亡くなっており、実家は妹一家が住んでいます。地元に縁はないので、最初は無視していたんですが、あまりにもしつこい。電話をとると、“母校の100周年を記念して同窓会をする。お前は同級生の星なんだから来い”という連絡でした」

【強引に自宅に上がり込んだ同級生は言葉を失っていた……次のページに続きます】

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