もう一つ最近の例を挙げると、新元号の「令和」が発表された時にも、「英語ではREIWA」というようなものをネット上でちらほら見かけました。しかし、日本独自文化の元号に英語名などはありません。このREIWAについては、REIWAなのかLEIWAなのか、という点で注目されましたが、外務省が海外に向けて「『令和』のローマ字表記は『REIWA』と通知した」と伝えられているとおり、REIWAは英語でも英語名でもなく、「令和」をローマ字で書いたものです。このローマ字表記が、公文書で用いられるとされる訓令式、海外向けに用いられることの多いヘボン式のどちらなのかについては発表がなく、うやむやにされた感がありますが、いずれの方式でも令和の「れ」はREと表記されるので、変わりはありません。

そして、ご記憶されている方も多いと思いますが、発表の際に「『令和』は英語ではbeautiful harmonyというような意味になる」といった説明もありました。これらの説明に沿えば、「令和」をローマ字で書くとREIWA、英語では、beautiful harmony。そして、beautiful harmonyは英語名ではなく、令和の意味についての一つの英語訳、ということになります。これもまた、整理して考えればわかることなのですが、アルファベットを使って書くと、日本語が突然、英語に変わるという魔法を信じている人が、日本ではどうも多いようです。

ローマ字書きの日本語が英語にもなるという例外は、karaoke(カラオケ)、emoji(絵文字)など、日本語がそのまま英語の中で使われるようになっている場合です。カラオケはアメリカ人の間でもとてもポピュラーな娯楽になっていますが、アメリカ人が発音すると、カラオケではなく、「カラオキ」に近くなり、イントネーションも違ってきます。日本人の耳にはなまって聞こえるそのkaraokeという単語は、もはやローマ字書きの日本語ではなく、英語になっていると思っていいでしょう。さらにkaraokeやemojiは、英語のみならず、世界の多くの国の言葉にそのまま取り入れられていて、世界共通ワードになっています。日本発の発明品や日本文化が世界に広がることで起こる、日本語の多言語化現象です。

また、ここ数年、外国人向けの表記については変化が起こっています。最近の訪日外国人旅行客の増加にともなって、外国人にもわかりやすいように新しく地図記号が作られたことをご存知の方は多いと思いますが、それに加えて、富士山はFujisan からMount FujiあるいはMt. Fuji、隅田川はSumidagawaからSumida Riverなど、これまでローマ字で表示してきた地名を、ローマ字と英語を組みわせて表記して、英語風にすることも多くなっています。これについては国交省の国土地理院が「地名の英語表記のルール」として発表していますので、より詳しくお知りになりたい方は、国土地理院のホームページをご覧になってみてください。来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、これまでのローマ字だけの表記から、こうしたローマ字と英語を合わせたハイブリッド表記が増えていく模様です。

日本人にとってむずかしい、英語とローマ字の使い分け。このテーマについては次回以降、さらに考えていきたいと思います。

文・晏生莉衣(あんじょうまりい)
東京生まれ。コロンビア大学博士課程修了。教育学博士。二十年以上にわたり、海外で研究調査や国際協力活動に従事後、現在は日本人の国際コンピテンシー向上に関するアドバイザリーや平和構築・紛争解決の研究を行っている。

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