野鳥や草花を呉須で絵付けした毎日、気負いなく使えるうつわ

林 京子さん
(石川県)

右上から時計回りに菊紋楕円鉢(直径15〜18×高さ6.5cm)、草花紋マグカップ(直径9×高さ8.5cm)、長角皿 (縦13×横8.5cm)、鳴瓢の浅鉢(直径18×高さ5cm)、蔓花の片口(直径12.5×高さ6cm)、濃蝶紋の鉢(直径21×高さ9cm)

林京子さんは昭和32年、神奈川県生まれ。夫の宏初さんは昭和27年、地元の石川県能美市生まれ。九谷青窯ようで出逢った。宏初さんは営業職だったが、後に作陶を開始。京子さんを支え、自らもうつわを作る。

九谷焼(石川県)といえば、山水や花鳥を極彩色で大胆に表現したうつわを想うが、林京子さんは、文様や形に九谷焼の流れを汲くみつつも、ときに「異端」とも評されるうつわを制作する。

絵付けには藍青色になる呉須という顔料を主に用いる。赤、黄、緑、紫、紺青の五彩の絵の具を使う九谷焼とは対極をいく。

自在に、勢いよく描く、絵付けの様子。鳥の輪郭に用いる赤茶色の顔料は鉄絵 。中筆で塗っている呉須すは、濃淡で3種を使い分ける。透明釉をかけて焼くと藍青色になる。

林さんの作品を扱う『暮らしのうつわ 花田』(東京都)店主・松井英輔さんは、その魅力をこう話す。

「磁器の白い素地にリズミカルに描かれた鳥や草木の文様が可愛らしく、心が弾みます。日々、気負わずに使える懐の深いうつわです」

林さんは、現在の工房にほど近い九谷青窯で修業を積んだ。その主宰者・秦耀一さんの父は、北大路魯山人による料亭「星岡茶寮」の支配人も務めた人物。“これからの時代に希求されるのは美術工芸品ではなく、日常に視座を置いた質の高い、しかも価格の安いうつわ”だと、昭和46年に開窯した。

「工房の仕事が終わると、自由に個人的な制作をし、それを販売することもできました。秦さんの家には魯山人ほかの銘品が多々あり、日々の料理をあたり前のように盛っていた。それをいただくなかで、うつわは毎日使ってこそ意味があることを学びました。一時期、沖縄のうつわにも惹かれて何度も足を運びました。昔ながらの薪窯で焼かれた上質なうつわが、驚くほど安価で手に入った。自分もそんなうつわを作りたい、そう感じたのです」(林さん)

3年ほど前から呉須の他に、色絵を使ったうつわも作り始めた。濃蝶や菊紋など伝統的な文様も林さんの手で現代的に蘇よみがえる。湯呑みやマグカップ、飯碗は1800円前後〜。日々の食卓にも取り入れやすい。

伝統的な九谷焼は型屋、素地屋、上絵屋など各工程に専任の職人が存在する分業の世界。しかし、林さんは成形から絵付けまで一貫して自らが行なう。作陶の合間、ともに仕事に励む夫の宏初さんと野鳥観察へ出かける。能登半島の北、50kmの洋上に浮かぶ渡り鳥の楽園として知られる舳倉島に行くのが、今は何よりの愉悦の時間という。

「以前は山を歩き、花を観察するのが好きでした。豊かな自然の世界は、本当に興味が尽きません。私の制作の原点です。ただし、うつわに花や鳥を描くときはリアルになり過ぎないように抽象化しています」(林さん)

瑞々しい呉須の色使い、余白を生かし、のびやかに描かれた様々な動植物の絵柄。自然を愛する林さんの感性が伝わってくる。

取材・文/鳥海美奈子 撮影/多賀谷敏雄

※この記事はサライ2017年5月号より転載しました。データや写真、肩書き等は当時のものです。

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