取材・文/鳥海美奈子

『サライ』本誌の5月号の特集は「人生を変えるうつわ選び」と題して、日々の暮らしに取り入れたい魅力的なうつわの数々をご紹介しています。

今回はその特集にも登場いただいた九谷の作家さんを含む3人の作品をご紹介します。いずれも普段使いできる日常のうつわです。

*  *  *

まずご紹介する作家さんは、林京子さんです。林さんは九谷焼の本場である石川県能美市に工房を構える作家さんですが、その作風は伝統的な九谷焼とは対極とすらいえるものです。

林京子さんご夫妻 撮影/多賀谷敏雄

九谷焼といえば、赤、黄、緑、紫、紺青という鮮やかな五彩の絵の具を使い、人物や動物、山水 (風景)などを大胆な構図で描いたうつわが代名詞です。しかし、林さんはおもに呉須という藍青色になる顔料を使い、絵付けをします。

伸びやかに描かれた、動植物の絵柄。白と青というシンプルな色使いゆえに、そのうつわは日々の食卓に違和感なく馴染み、気負わずに使えると大変な人気を博しています。

林京子さんの作品。ややグレーがかった金沢の土を使うため生地は真っ白ではなくやや落ち着いた色合い。それが染付に使う呉須の青としっくりと馴染む。撮影/多賀谷敏雄

絵付をする林京子さん。伸びやかに、自在に、鳥や花などの模様を描いていく。伝統的な文様も林さんの手で現代的に蘇る。撮影/多賀谷敏雄

そんな林さんの作風は従来の九谷焼とは明らかに違う、異端とすら言えるもの。そんな林さんが、独立前に修業したのが、工房のすぐ近くにある「九谷青窯」でした。林さんはこの窯で、伝統に縛られず自由に物づくりをする精神を学んだのです。

石川県能美市にある九谷青窯。全国から意欲的な作り手が集まる。若手には理想的な勉強と作陶ができる場だ。

20~30歳の陶工が日々、仕事に励む。現代の暮らしに、どのようなうつわが必要とされるか、自らの個性を映したうつわとは何かを模索する

九谷青窯の創業は1971年。主宰者・秦耀一さんは、東京でサラリーマンを経験したあと、地方で面白いことをやりたいと、石川県能美市で数人の仲間と九谷青窯を開窯しました。

当時はひとりを除いて全員、作陶の経験はなし。しかし、その作品は伝統的な九谷焼のなかでは異端と評されると同時に、これまでうつわに興味のなかった人々までをも魅きつけて、評判を呼びました。秦さんはこう語ります。

「九谷焼の始まりは17世紀です。素朴なうつわが主流だった当時、鮮やかな絵付けをする九谷焼は、その概念自体が非常に斬新でした。現代に生きる我々が、その伝統をただ模倣してもつまらない。とはいえ400年以上、九谷焼が続いてきたのにはやはり理由や長所があります。

伝統的な美しい文様や斬新な精神といった長所は受け継ぎつつ、現在の人々の心を動かす、いまの食卓に合ったうつわを作れないか。温故知新をテーマに、作陶を始めました」

主宰者の秦耀一氏は現在、72歳。「今は大量生産の工業品でも良質のものがたくさんある。その状況のなかで、いかに陶工が魅力的なうつわを作れるかが問われる」と語る。

実は秦さんの父は、北大路魯山人の料亭「星岡茶寮」の支配人なども務めたほどの鑑識眼の持ち主。父から数々の銘器を受け継いだ秦さんは、魯山人をはじめとする偉大な作家のうつわを、食事の際に普通に使ってきました。

うつわの価値とは何かを充分に知ってうえで、「これからは、偉大な芸術家の高価な作品を買い、家に飾って有難がる時代ではない。適正価格で手に入れやすく、日常のなかで使いやすいうつわの時代が来る」と看破したのです。

九谷青窯では創業以来、20~30代の若い陶工が10~12名ほど所属し、学びつつ作陶に励んでいます。

一般的には、窯元には親方がいて、その下に何人もの兄弟弟子がおり、その上下関係は厳しく、ゆえに仕事も分業になりがちです。しかし九谷青窯では、働き始めてからほどなく、デザインから成形、焼成、絵付けまでを一貫してひとりで行うことができます。

「平均年齢は30歳を超えないようにしています。ある程度、経験を積んだらひとり立ちできるようにする。独立すると、この近くに家と工房を構える人が多いんですよ」(秦さん)

そんな自由で伸びやかな主宰者の精神性が、そのまま九谷青窯の作品にも表れています。九谷の伝統を上手に取り入れつつ、モダンで遊び心のあるうつわを作る、新進気鋭の作家の作品をご紹介しましょう。

*  *  *

まずは徳永遊心さんの作品です。代表作『色絵花繋ぎ 平皿』は可愛らしい模様と明るく瑞々しい色使いが特徴。この模様は東欧の民族衣装の刺繍柄からインスピレーションを受けたもの。和洋中のどんな料理にも合うのが魅力です。

制作中の徳永遊心さん。

花や蝶が円を描いて繋がり、皿を縁どる。最も小さい5寸の平皿で2000円。6寸2400円、7寸3500円、8寸5000円。

もうひとりは高原真由美さんです。代表作は呉須の青のみで染付けたうつわ、さらには写真のような白磁のうつわです。

パスタなどの洋食だけでなく、焼き魚や果物を載せても美味しそうに見える。呉須の青のみで染め付けたうつわや白磁は、定番使いできるのが何よりの魅力だ。

白磁はシンプルなだけに、形の美しさを際立たせて作り上げます。さらにその白磁の口縁に茶色の縁取りをした「皮鯨(かわくじら)」という古くからある技法を使ったうつわは、どこか凛とした風情が漂います。長く飽きずに使い続けられるうつわです。

右/白磁輪花(2200円)広めにとられた縁が波打ち花びらのように見える。左/皮鯨輪花角皿(2600円)鉄釉のふち取りがうつわ全体の印象を引き締める。

以上、普段使いできるモダンな九谷のうつわ作家さん3人とその作品をご紹介しましたが、いかがでしょうか?

なお、ご紹介した徳永遊心さんや高原真由美さんなど「九谷青窯」のうつわは、東京・杉並にあるショップ「cotogoto」で販売しています。

【cotogoto】
■住所/東京都杉並区高円寺南4-27-17-2F
■電話/03・3318・0313
■営業時間/11時~20時
■定休日/無休
■ウェブサイト/http://www.cotogoto.jp/
※記事で紹介したすべてのうつわが現在、購入できるわけではありません。

【九谷青窯】
■住所/石川県能美市大長野町チ-102
■電話/0761・57・0689
※うつわの直販は不可となっています。

取材・文/鳥海美奈子
撮影/多賀谷敏雄(林京子さん)
写真協力/cotogoto(九谷青窯)

 

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