漆の産地で作られる、飾り気のない、使うほどに味わいを増す漆器

岩舘 隆さん
(岩手県)

左上から時計回りに片口(直径15×高さ10・5cm)、羽反り椀(直径12・5×高さ7・5cm)、ぼかしぐい呑み(直径6×高さ4cm)、椿皿(直径
13・5×高さ3cm)。浄法寺町の『滴生舎』(※岩手県二戸市浄法寺町御お 山やま中前田23-6 電話:0195・38・2511 )でも取り扱っている。

岩舘隆さん。昭和29年、岩手・浄法寺に生まれる。塗師として熟練の技量を発揮する一方、漆掻き職人の顔も持ち、自身の工房で使う分の漆は森に入って自ら採取する。

早春の一日、岩手県二戸市の浄法寺地区に塗師の岩舘隆さんを訪ねた。『暮らしのうつわ 花田』(東京都)主人の松井英輔さんがこんな話をしてくれたからだ。

「そろそろ本物の漆器を手に入れたい。お客さんからそんな相談をされると、私は岩舘隆さんの浄法寺塗のうつわをお薦めしています。浄法寺では、原料の漆も採取しています。国産漆の美しさとしっとりした手触りは一度、経験すると忘れられません」

近年、国産漆の生産量はめっきり減少し、最近ではほとんどを輸入に頼っているという。そんな中、浄法寺地区は国産漆の6〜7割を生産する「漆の里」だ。この地元産の良質な漆を使用して作られる漆器が浄法寺塗。歴史は古く、この地で奈良時代に開創した天台寺が発祥の地。千年余の昔、寺僧たちが自ら使う什器を手作りし、それが塗りの技術とともに庶民に広がったとされる。

採取した漆を入れる容器のタカッポ。ウルシの木の幹に一文字で傷をつけると、木がその傷を治そうと自ら樹液を出す。この樹液が漆で、これをヘラで掻き取って一滴一滴、採取する。

岩舘隆さんは、じつは元サラリーマン。会社勤めを経て20代後半に塗師へ転身したという。

「もともと、親父が漆掻き職人でした。けれど、私が若い頃に浄法寺塗そのものが廃れていた。なんとか再興したいと思い、会社を辞めて県の指導所や漆器業者の現場で修養を積みました」

漆器の世界は分業体制が確立している。漆を塗る前、うつわの土台となる木地は木地師と呼ばれる職人が作る。これを岩舘さんたち塗師が引き継ぎ、漆を浸透させる「木固め」から始め「下塗り」「中塗り」「上塗り」と、塗りと乾燥、研磨を7回ほど繰り返して丁寧に仕上げていく。

木地師から届いた木地に生漆を浸透させる「木固め」から、塗師の仕事が始まる。浸透させる前、生漆の中にまじった微細なゴミを取り除くため、不織布をきつくねじって漉 していく。

女性の髪の毛で作られた希少な刷毛を使って手早く塗り、乾燥させて磨く。7回目となる最後の塗りの後はあえて仕上げの磨きはしない。持ち主が使い込むことで艶と輝きが増すという。

「私はよく、塗師の仕事は7割であとの3割は使い手が完成させると言うんです。漆器は使い込むほどに味わいと美しさが増します。重箱なども正月だけでなく、時折、ちょっとした料理を入れて一段だけ使ってもいい。そのほうが適度な湿度を与えられ、しまい込んでおくより却って傷みにくい」

と、岩舘さん。とにかく、軽くて保温性の高いのが漆器のいいところ。熱々の汁物を入れても手に持つことができ、口当たりもよい。逆に、冷たいアイスクリームを入れても溶けにくい。

「毎日使っても飽きがこないよう、素朴なデザインに徹しています。より自由な発想で、日常的に使ってほしいですね」(岩舘さん)

傷んだら塗り直して修復できるのも漆器の特徴。10年程度で直しに出すのがより長く使う秘訣とか。

取材・文/矢島裕紀彦 撮影/宮地 工

※この記事はサライ2017年5月号より転載しました。データや写真、肩書き等は当時のものです。

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