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和のうつわの根本を永平寺に尋ねる|食事をいただく禅の作法とは

正装で坐禅を組み、食前に合掌低頭して「五観の偈(げ)」を唱える。偈のなかで唱される「功の多少を計り彼の来処を量る」とは“食事が作られるまでに、どれほど多くの手間と労力がかけられたかに思いをはせる”という意味である。

和食の原点は、中国より伝わった禅宗の精進料理にあるといわれる。豆腐・納豆・素麺等、生粋の日本食と今は思われている食文化もじつは禅院を経由して広まったようだ。和のうつわの根本を尋ねて永平寺を訪れた。

大本山永平寺は、三方を山に囲まれた越前福井の深山幽谷の地にある。中国から禅の教えを体得して帰朝した道元禅師により、寛元2年(1244)に開かれた坐禅修行の根本道場である。

曹洞宗の大本山永平寺 は僧侶の育成にあたる修行道場。10万坪の寺域に大小70の建物が並ぶ。写真は唐門。細部の彫刻が優れて見事。(写真/藤田修平)

参禅・教化の指導責任者である秋田修孝さんが言う。

「永平寺の修行の中心は坐禅です。黙々と壁に向かって坐り、自己と向き合い、本来のありようを見出してゆくのです」

修行は坐禅だけではない。入浴は沈黙を保つ等、行住坐臥のすべてに守るべき厳格な作法がある。

「ご開山さま(道元禅師)は食事の重要さも説かれ、“驕慢にして食すべからず。恭敬して食せよ”(※驕り高ぶって食するのではなく、慎み敬う心で食べよ。)等、その心得・作法を『赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)』に細かく示しておられます」

禅の修行僧の食事は鉢多羅(はつたら)または鉢盂(はつう)といううつわでいただく。大きさの異なるうつわをひと重ねの“入れ子”にして持ち歩ける優れものだ。一汁一菜の簡素な食事を旨とする僧が、托鉢行の際に施しを受けた鉢がもとと考えられる。

鉢多羅は古代インドのサンスクリット語の「パートラ」を音写した言葉。1日に食する応分の量をいただくうつわという意味を込めて「応量器」とも呼ばれる。

修行僧の昼食(写真)は「ご飯」「汁」「沢庵」に「おかず一菜」、夜は「おかず二菜」になる。大蒜(にんにく)・韮(にら)・葱(ねぎ)・辣韮(らっきょう)・玉葱は摂らない。

修行僧は坐禅堂の「単」と呼ぶ畳1枚分の空間で、坐禅を組み、睡眠と食事もとる。鉢多羅は単の浄縁(板敷き)に置く。都合5つのうつわと箸や匙など一式がコンパクトに収まる。

先の秋田さんは語る。

「食事は、衣に御袈裟をかける正式な姿で威儀を正し、坐禅の姿勢でいただきます。自然界のさまざまな恵みや多くの人の労によっていただくことができる食事に、最高の礼を尽くして感謝するのです」

食事の前には、己を省み一切に感謝する「五観の偈」を唱える。

食事中は噛む音やうつわの触れる音を立てないよう細心の注意をはらう。一切の私語は禁止である。

「鉢多羅を持つ際は小指と薬指を折り曲げて3本の指で丁寧に扱います。無駄な動きが一切ない、最も簡素で合理的な作法です。一番大きなうつわはお釈迦さまの頂骨(頭)に準えて、頭鉢(ずはつ)と呼びます。直に口をつけてはいけません」

命をつなぎ育む鉢多羅を扱う作法には、うつわを使う甚深なる意味が込められている。

食べ終えると、配られる湯を「頭鉢(ずはつ)」で受けて「刷(せつ)」で洗い清める。湯を順次、うつわへ移しながら洗い、残った湯は「折水(せっすい)」と称して川に流す。自然界に還元する作法だ。

永平寺の「一泊参籠」で供される朝食の一例。左下はご飯。時計回りに凍み豆腐や野菜の煮物、薇(ぜんまい)・蕨(わらび)・山芋を和えたもの、おから、お茶、味噌汁、香の物。真ん中の「小皿」は澱粉で作った“吉祥しぐれ”。肉のしぐれ煮のような食感の一品である。お茶以外は漆器で供される。

※この記事はサライ2017年5月号より転載しました。データや写真、肩書き等は当時のものです(取材・文/佐藤俊一 撮影/多賀谷敏雄)。

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