暮らしを豊かにしてくれる良き「うつわ作家」６組８人の肖像

和洋折衷で豊かなにっぽんの食卓を華やかに彩るうつわ

中尾雅昭さん
（静岡県）

右上から時計回りに「森のプレート」シリーズの黒色版（直径19×高さ1.5cm）、乳白色の湯呑み（直径8.5×高さ5.5cm）、森のプレート（直径22.5×高さ1.5cm）、黄釉の５寸鉢（直径15×高さ５cm）、緑釉鉢（直径12×高さ6.5cm）。

中尾雅昭（なかおまさてる）さん。昭和26年、大阪府生まれ。静岡県伊東市の自然に囲まれた工房で日々、作陶に没頭。土はよく練って空気を抜く。仕上がりにも影響する作業だ。

そのうつわを使えば、食卓が瞬時に華やぐ。緑や黄色、トルコブルーといった鮮色が目を悦ばせてくれる、中尾雅昭さんの作品群である。

「和食器とも、いわゆる洋食器とも違う独自の世界観です。洗練されているのに、尖りすぎていない。色が鮮やかなので使いこなせるかと心配する人もいますが、料理が驚くほど映えるので、一度使うと手放せなくなります」

中尾さんの作品を販売する『うつわＰＡＲＴＹ』（東京都）店主・坂根さよみさんはその魅力を語る。

「僕は正式な作陶の勉強をしていないんです。逆にそれがよかったのかもしれない。常道とは関係なく、その時々で面白いと感じることを取り入れてきた」（中尾さん）

武蔵野美術大学工芸デザイン科出身。鉄や銅などで作品を制作していた。しかし卒業を迎える頃、粘土に開眼。やがて人物のオブジェなどで名高い陶芸家・阿部和唐さんと邂逅する。その個性的な作品群に惹かれ、制作の準備を手伝いながら、自らのうつわを模索した。まもなく和唐さんの母で、料理研究家の故・阿部なをさんが中尾さんのうつわを使い始める。“この形だと使いやすく、洗いやすい”、“料理が美味しく見える”など多くの視座を投げかけてくれた。

「当時は若く、作為に走っていました。料理を盛ったときに緊張させないうつわとは何か、を考える契機になりました」（中尾さん）

近年、人気で注文も多いという土鍋も、中尾さんの作品は色彩豊か。土鍋に使われる耐熱鍋土に緑釉をかけると、美しい青銅色になる。１合炊きで１万２０００円（直径18cm）。耐熱皿も直接、火にかけて調理できるので便利。

もうひとり、中尾さんが感化を受けた先人がいる。昭和30年、人間国宝に認定された陶芸家・石黒宗麿だ。そのうつわは瑞々しく、今に通じる現代感覚に溢れる。自らの作品の理想の姿をそこに見た。

そんなモダンな感性が表現されているのが昨年、誕生した通称「森のプレート」である。白い素地に、木々にも、葉にも見える黒い文様が不規則に描かれている。

「黒呉須に釉薬を調合した顔料で、自然なばらつきが出るように文様を描く。そして、黒い部分をカンナで引っ掻
き、うつわにより表情を加味します」（中尾さん）

現代的な白黒のうつわは様々な料理に調和し、かつ臨場感を与えてくれる。和洋折衷の日本の食卓を豊かに彩るうつわといえよう。

自らのうつわを日々の食事に使う。家族用には３合炊きの土鍋が重宝する。青や黄色のうつわが、カレーを美味しそうに引き立てる。単色のうつわだけを使うよりも、食卓に活気が出る。

取材・文／鳥海美奈子　撮影／多賀谷敏雄

※この記事はサライ2017年5月号より転載しました。データや写真、肩書き等は当時のものです。