取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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現在、埼玉県草加市内に住む湯田健一さん(仮名・72歳)は、成績優秀でスポーツ万能の自慢の息子(44歳)が「いた」。
ノルマを達成しないと3時間以上罵倒される
自慢の息子が「いた」と過去形の理由を聞いた。
「別に息子が死んだからではありません。半年前からウチの子供部屋に引きこもっています。家内は半年前に亡くなり、“自慢の息子”の現状を知らないのですから、ホントに幸せだと思いますよ」
息子は何をしたのだろうか。
「借金まみれで、何もかも失って、ウチに逃げ帰ってきたのです。今は休職ということになっていますが、クビになるでしょう。妻子からもあきれ果てられて離婚。お嫁さんに対しては、いつも不機嫌で家政婦のようにこき使っていたみたいですね。つまり息子は小さい頃から勉強もスポーツもできていたから、人を見下すようなところがある。そういうことを続けていたら、“金の切れ目が縁の切れ目”になりますよね。結局、愛想をつかされました。もう何をやっているんだかって感じですよ」
息子は大手金融関連会社の課長職になっており、年収は1500万円程度あったという。
「金融の仕事はもらえるお金も大きいけれど、それ以上のストレスがあったみたいです。過重なノルマがあるので、人にお金を貸すために、あの手この手と駆使しますからね。必要がない設備投資を進め、倒産に追い込まれた工場の社長から“お前が金を無理やり貸すからこんなことになった”と言われたことがあると言っていました」
あとは金融商品の販売も行っていたという。
「億単位のノルマが課せられて、それが達成できないと、支店長に“死んでお詫びしろ”などと罵倒される。部下が達成できないと連帯責任で3時間以上怒鳴られるとか言っていました。罵倒される側も大変ですが、怒り続ける方もストレスがたまりますよね」
息子はストレスの発散を、酒とギャンブルで行っていた。
「女性がいるお店に行って飲んだり、競馬をやったりしていたそうです。競馬は学生時代からやっていて、そこそこ腕もあったのですが、ツイているときは勝てるけれど、ダメなときはダメ。息子の人生が下り坂になったのは、6年前にマンションを買ってからだそうです」
【女性がいる店で、大盤振る舞いをしてしまう。次ページに続きます】