取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

* * *

現在、埼玉県草加市内に住む湯田健一さん(仮名・72歳)は、成績優秀でスポーツ万能、金融関連会社に勤務する息子(44歳)が休職し、実家に帰ってきた。現在は引きこもり中で、このままでは退職になる。息子には一男一女がおり、今後の教育費を含めて、見通しが立っていない。

【これまでの経緯は前編で】

スマホを購入した母親に罵声

現在息子は引きこもり中だという。その理由について伺った。

「金がなく、会社に借金をしているからです。金融関連会社というのは、私の側から見るとすごいと思います。毎月、何億円ものノルマを達成させて、相場より高い給料を払う。“働かされている”ほうは、お金の感覚が少しおかしくなる。息子のように女性がいる店に行ったり、分不相応なマンションを買ってしまったり、自分の子供たちに高い教育費をかけたりするようになる。当然、金が足りなくなるから、借りる。会社は社員向けの金融商品を用意しているので、そこから借りる。そして社員は、ますます会社に忠誠を誓うようになるというわけです」

息子は住宅ローンの日々の生活費の補填分も、会社から借りていた。

「そうなると大変ですよね。息子も限界になっていたであろうところに、コロナ禍で息子が販売した投資信託が元本割れして、顧客からの罵声を浴び続けた。そこに、私の妻の死があった。母親に死なれるというのは子供にとって大きなストレスだそうですね。コロナ禍でろくにお別れもできなかったので、その死を受け入れることができない。息子の嫁は私の妻を嫌って避けていた。息子に対しても“マザコン”などと言っていたようですから、息子も嫁に遠慮して、結婚してからは疎遠になった。今、実家にいるのでたまに息子と話すのですが、“ママを温泉に連れて行ってあげたかった”とか“ママはパリに行きたがっていたよね。なんで連れて行ってあげなかったのか”などと言って泣いているんです」

とはいえ、息子は母親に対して、“いいこと”をしていたわけではない。

「妻は息子を崇めていた。息子は天狗になり母親に対して高圧的なふるまいをしていた。あれは忘れもしない7年前のこと。妻がスマホを買ったんです。それをたまたま実家に来ていた息子に見せたら“は?なんで年寄りがスマホを買うんだ? 使いこなせないだろう”と妻に対して怒鳴ったんです」

そのとき、健一さんは留守にしていた。「なんてことを言うんだ」と息子に抗議したという。すると、息子は「教えてやったんだ」と言ったという。

「自分の母親に対して、この態度なのですから、妻子に対してどんな態度で接してきたかわかるようなもの。今、息子は離婚間近なんです」

【孫が祖父に借金の申し込みに来る……次のページに続きます】

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