万年筆画の第一人者・古山浩一さん

万年筆画の第一人者・古山浩一さん。

本来、文字を書くための道具である万年筆。ところが、文字ではなく絵を描く道具として万年筆を手に取り、独特の手法と感性で絵画作品を制作するアーティストがいます。万年筆画の第一人者・古山浩一さんです。

5年前から「万年筆画入門」講座の講師もつとめている古山さんに、万年筆画を手掛けるようになった経緯とともに、万年筆を使って上手に絵を描くコツについてお話を伺いました。

古山さんの万年筆画。アクリルを塗ったパネルに和紙を貼って、その上から万年筆で風景を描き込み、色鉛筆で着色している。

古山さんの万年筆画。アクリルを塗ったパネルに和紙を貼って、その上から万年筆で風景を描き込み、色鉛筆で着色している。

--古山さんにとって「万年筆」の魅力とは何ですか?

古山「ペン先が紙をかすかに擦(す)る感じ。これが、最高に好きなんです。ペンと紙が触れ合う感触、といえばわかるでしょうか。ボールペンでは味わえないし、ましてやパソコンにはない。言葉を換えれば、手が感じる快感。万年筆は単なる筆記具ではないと思いますよ。

それに加えて、高校生のときからインクが紙に染(し)みたような線がものすごく好きでした。万年筆は鉛筆より書きやすいですから、高校1年から使っていましたね」

--最初に購入した万年筆を覚えていらっしゃいますか?

古山「パイロットのカスタムです。黒インクのカートリッジを入れて書いていました。僕らの世代は中学生になると “大人の証”として、万年筆をプレゼントされたり親が買ってくれたりする習慣がありましてね。僕が最初に手にした万年筆は学習雑誌の“おまけ”でしたが、これがじつに書きにくい(笑)。ですから中学時代は万年筆を使っていません。でも自分の万年筆がどうしても欲しくて、高校1年のとき自分のお金で買いました。

大学(筑波大学)時代はもっぱら絵の方面に集中し、4年で論文を書くことになって、ならば万年筆だろうと。当時、作家で万年筆コレクターの梅田春夫さん(故人)たちが作り上げた理想の万年筆、プラチナ♯3776を買いました。日本の最高峰、富士山の標高にちなんだネーミングです。もともと万年筆は好きですから、働き出して10本くらいは持っていましたね」

--万年筆で絵を描き始めたきっかけは何でしょうか?

古山「それはね、『プリントゴッコ』です」

--年賀状の印刷に使った個人向けプリンター(1977年発売)ですか?

古山「そうそう。印刷原稿を感光させてハガキなどにプリントする簡易印刷機。原稿が染料インクで書かれているとボケがちで、顔料インクを使うときれいに感光しました。プリントゴッコのメーカー(理想科学工業)が『カーボンペン』と名付けた特殊なペンを発売し、そのペンには顔料インクのプラチナ製カートリッジが入っていました。

紫外線で退色し、水で消えてしまう染料インクと違い、耐光性・耐水性がある顔料インクはパーマネントインクと呼ばれます。つまり、プリントゴッコの顔料インクを使えば、絵画作品としていつまでも残ることに気づいたわけです。そして、その顔料インクはカートリッジでしたから、万年筆でも使えます。こうして、顔料インクを入れた万年筆で絵を描き始めました。万年筆を使った僕の最初の作品が、福音館書店の月刊科学絵本シリーズ『たくさんのふしぎ  その先どうなるの?』(1997年刊)です」

和紙に万年筆で風景を描き、色鉛筆で彩色した古山さんの作品。

和紙に万年筆で風景を描き、色鉛筆で彩色した古山さんの作品。

※次ページ>>「万年筆の可能性が作品づくりを大きく変える」

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