クラシックカー文化を広めることと、次世代へのバトンタッチ
お子さんが自立され、家庭での自身の役目はひとまず果たしたと、守さんは60歳を前にしてレース活動を再開。競技用にフィアットの『500』をベースとし、アバルトがチューニングを手がけた『アバルト595』を購入します。
また、時を同じくして、以前に耐久レースで見かけた、アルファロメオの『ジュリア・スプリントスペチアーレ』が名古屋で売られていると知り、奥様とショップへ赴きます。
「これまでどういった経緯を辿ってきたのか、エンジンも何もかも色んな人の手が加わっていて……。正直、状態は良くありませんでした。決して安い買い物ではありませんが、ここでアルファと出会えたのは縁です。私が入手してレストアを行い、完全な状態にして次のオーナーの元に届けるのが使命と感じ、購入を決めました」
即日でジュリア・スプリント・スペチアーレを購入した守さんは、すぐにレストアを手配します。
「アルファのレストアは、ベルエアよりはずっと早く終わりました。乗ってみると、やっぱり競技車両ですね。音はこもってうるさいですし、雨も漏る。エアコンも付いていませんから、夏は暑くてどうしようもない。ですが、このクルマでしか味わえない刺激と感動があります。思い切って買ってよかったと心から思っています」
この頃になると守さんは多くの人、特にお子さんに「クラシックカーの良さを知ってもらいたい」と思うようになります。レストアの終えたベルエアにジュリア・スプリント・スペチアーレ、その後に購入したトライアンフの『TR3A』でクラシックカーの競技やイベントに参加しては、興味を持ってもらえるよう観戦者に接しています。
「クルマは乗って走らせることに価値があります。けれどクルマ趣味を長く続け、それだけではないと思うようになりました。クルマを所有することで色々な人と出会えて、そこから学べることがなんと多いことか。今までクルマや、それぞれのオーナーに多くを学ばせてもらいました。私からも伝えられることがあればと、なるべく多くの人、特に若い方や子供たちとふれあうよう心がけています。これがきっかけとなり、いずれはクルマやクラシックカーが好きになってくれたら嬉しいですね」
クラシックカー文化を広める傍ら、次世代へのクルマのバトンタッチも考えており、今後の目標のひとつに、「ベルエアでアメリカを旅行した後、生まれ故郷に返す」ことを挙げています。
「希少なクルマや価値のあるクルマを所有した以上、いずれはバトンタッチをしなければなりませんからね。私は3年前の『グレートレース』に、チームジャパンのサポートスタッフとして参加しました」
グレートレースとはアメリカで催される、大規模なクラシックカーレースのことを指します。毎年開催されており、アメリカ大陸を横断、または縦断するコースが設定され、クラシックカーで3000~4000キロを走破しなければならない過酷な競技です。
「その時、辿ったコース(サンフランシスコ~シカゴ)をもう一度、ベルエアでのんびりと走り、最後はベルエアを生まれ故郷に返そうと考えています。それがいつになるか分かりませんが」
“終活”という言葉が流行る中、66歳を迎えても新たな夢を描いては語り、実行に移す、終活知らずな守さん。今後も守さんのクルマ遍歴は、上書きされ続けます。
取材・文/糸井賢一(いといけんいち)
ゲーム雑誌の編集者からライターに転向し、自動車やゴルフ、自然科学等、多岐に渡るジャンルで活動する。またティーン向けノベルや児童書の執筆も手がける。