取材・文/糸井賢一(いといけんいち)
ただの乗り物なのに、不思議と人の心を魅了する自動車とオートバイ。ここでは自動車やオートバイを溺愛することでオーナーさんの歩んだ、彩りある軌跡をご紹介します。
今回、お話を伺ったのは、東京都内で運送会社の代表を務める佐々木守さん(66歳)です。奥様とは26歳で結婚。勤めていた建設会社を50歳で退職し、運送会社を立ち上げます。現在、業務用の軽トラに趣味のクラシックカーと、ステアリングを握り続ける毎日を送っています。
子供の頃、よくしてくれた親友のお兄さんのおかげで車が大好きに
1964年、2ドアのスポーティーモデルとして登場した、いすゞの『ベレットGT』。丸みを帯びた流麗なスタイルとレースで上位を席巻した性能により、60年代を代表する人気車種となり、“ベレG”の愛称で親しまれました。
「私が中学生だった頃、親友のお兄さんがベレGに乗っていました。そのお兄さんにはよくしてもらい、何度も乗せてもらいました。その時、『いつか自分も格好いい自動車に乗り、格好よく乗り回すぞ』って、心に誓いました」
高校に進学後、16歳で軽自動車の免許(※1)を、18歳で普通自動車免許を取得。アルバイトで稼いだお金と不足分を親御さんに援助してもらい、日産の3代目『スカイライン』、通称“ハコスカ”を新車で購入します。
「レースで活躍する姿を見て、『絶対に自分はスカイラインを買うんだ』って決めていました。乗ってみると、やはりスピーディで、とてもワクワクするクルマでしたね。納車後、すぐに富士スピードウェイのライセンスを取得して、走行会に草レースにと、とにかく無我夢中で走り回りました。買ったのは2000GTでしたが、あとでGT-Rのエンジンに載せ替えました。この頃は本気でレースドライバーになることを夢見ていましたね」
プロのレースドライバーを目指し、時間の許す限りサーキットに通った守さん。守さんの大学生時代は常にスカイラインと共にありました。
しかし大学四年生となり、将来という現実を目の当たりにした守さんは、苦渋の決断を下します。
「残念ながら、卒業までにレースドライバーになる目星を付けることができませんでした。このまま活動を続けることもできますが、社会人になると時間がなくなる上、あまりにお金がかかります。また少し前にレース仲間を事故で失っていて……。ここが引き際とレースドライバーになることを断念しました」
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