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【夕刊サライ/横山剣】「ロータス エラン」 “ハンサムなプレイボーイ” になって、一緒に走る日を夢見て(横山剣のクルマコラム 第2回)

夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。水曜日は「クルマ」をテーマに、CRAZY KEN BANDの横山剣さんが執筆します。

文/横山剣(CRAZY KEN BAND)

「東洋一のサウンドクリエイター」横山剣です。突然ですが、皆さんは生涯で何台のクルマと付き合いたいと思われますか? 僕は幸せなことに、30台以上のクルマと付き合ってきました。もちろん、数が多ければいいってもんじゃありません。クルマも音楽と同じで、誕生するまでのストーリーがあり、産まれた後も人々に愛されることで、その存在意義が変化していくものです。様々な時代の人の想いが詰まっている。
だからクルマは「タイムマシン」みたいなもの。あの日、あのときを味わせてくれる存在。
愛車遍歴は僕の「時代との出会いの歴史」でもあります。

レコーディング後の音チェックはクルマの中でするのが習慣。8月1日にデビュー20周年記念アルバムがリリース予定。写真のクルマは1956年製「オースチン・ヒーレー」

そんな僕ですが、ずっと気になっていながら、なかかな実車とは縁がなかったクルマがあります。「ロータス エラン」。1962年にイギリスのスポーツカーメーカー、ロータスカーズから発売された、流れるようなスタイルが美しいクルマです。初めてステアリングを握ったのは今から2年前。大磯ロングビーチの駐車場で長年開催されている湘南ヒストリックカークラブ(SHCC)主催のジムカーナで、SHCCの副会長さんが所有する「エラン」を運転させてもらったんです。

これがスレートグレーのボディにバーガンディのソフトトップという、なんともハイセンスなコンビネーションで、しかも極上のコンディションのドロップヘッドクーペ(コンバーチブルの英国風の呼称)だったんですよ。

コクピットに収まっての第一印象は、タイトだけれど窮屈ではない。「MG」や「オースチン・ヒーレー」のように、胸の前で抱え込んだハンドルが腿に当たるようなこともなく、手足が伸ばせるんです。運転してみると、想像していたよりエンジンが神経質な感じがしました。限定的な局面で性能を引き出すために、そういう味付けにチューニングされていたのかもしれません。なにしろ本格的なレースサーキットではなく、短いコースを走るジムカーナですから、ごく短時間しかドライブしてないので、詳しいことはわかりませんが。

短い時間でしたが、ずっと気になっていたクルマを操る愉しみは感動ものでした。(撮影:沼田亨)

それにしても、1962年のデビューから半世紀を優に過ぎた今も、古さを感じさせない「エラン」のスタイリングは驚異的ですね。幼い頃、図鑑で見た深海魚みたいだと思った、リトラクタブルライトとビルトイン式のフロントバンパーを持つ顔つきは、ものすごく未来的。しかもコンパクトで軽量なボディにロータス・ツインカムを組み合わせた走りっぷり、とくにハンドリングは今なお高く評価されています。

そもそも「エラン」を知ったのは、幼稚園か小学校低学年の頃ですが、強く意識するようになったのはもう少し後、1970年代初頭あたりですかね。きっかけは自動車雑誌の「人に歴史あり」みたいな企画で紹介されていた滝 進太郎さん、通称タキシンさんが駆る「エラン」の雄姿でした。

当時すでに滝さんの名前は知っていたし、サーキットでダンディな姿を見かけてもいましたが、その記事で人となりを知りました。それによれば、青年実業家だった滝さんは、「エラン」や「ポルシェ・カレラ6」を駆りレースで活躍した後、モータースポーツをビジネス化すべく「タキ・レーシング・オーガニゼーション」を設立。1968年の第5回日本グランプリでは、田中健二郎、生沢 徹ら数名のトップドライバーを擁したプライベートチームのオーナー兼監督として、日産、トヨタの2大ワークスに真っ向から戦いを挑んだんです。

トヨタ、日産、タキの頭文字から「TNTの激突」とメディアも煽り立てた滝さんの奮闘ぶりに、刀一本で大軍に斬り込んでいくサムライのようなスピリットを感じました。そんな彼のレース活動の原点だったという「エラン」が、強く印象に残ったんです。

幼少期のレースへの憧れは確実に僕の中に残っていて、昨年から「BMW2002」でクラシックカーレースへの参戦を始めました。そこでまた「エラン」に出会ってしまったのです。すばらしく速い、「タイプ26R」こと「レーシングエラン」が出走していて。それに刺激されて、このところエラン熱が高まりつつあるんですよ。チャンスがあれば、いずれは乗りたいですね。色は滝さんが乗っていたようなレモンイエローがいいな。

前回紹介した同じ60年代を代表するクルマ「いすゞ ベレット」に比べて、「エラン」はとんがった大人が乗っていた印象です。作詞家で当時のファッションリーダーだった安井かずみさんや、俳優やエッセイストとして活動し、ファッションにも一家言持ち、のちに映画監督として知られるようになる伊丹十三さんが乗っていましたよね。時代を先取りする人たちに愛されたクルマなのかもしれません。もし「エラン」を手に入れたら、ドライバー連中のたまり場だったというホテルオークラのカメリア(ティールーム)でお茶を……と思ったけど、改装されちゃったんですよね。残念!

そんな「エラン」をはじめ、「MG」や「トライアンフTR」、「オースチン・ヒーレー」などの英国製スポーツカーを乗りこなすカッコいい青年をイメージした曲が、2000年にリリースしたクレイジーケンバンドの3rdアルバムのオープニングナンバー『ハンサムなプレイボーイ』なんです。あの曲で歌われる「スポーツカー」は、けっしてイタ車やドイツ車ではないんですよ。60年代のお坊ちゃんというか、横分けハンサムな男のイメージです。そんなプレイボーイが乗っているのは間違いなくイギリス車。当時の雰囲気を感じながら、BOOM BOOMと走ることを想像するだけでワクワクします。僕が横分けになる日も近いでしょうか?!

レースは一朝一夕にはいかないもの。様々な苦労はありますが、走りきったときの喜びは他には例えられないものがあります。「エラン」でレースに出る日も来るのでしょうか?!

横山剣(CRAZY KEN BAND)
1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足。今年クレイジーケンバンドはデビュー20周年を迎え、8月1日(水)には3年ぶりとなるオリジナルアルバム「GOING TO A GO-GO」をリリース予定。9月24日(月・祝)には、横浜アリーナでデビュー20周年記念ライブも行われる。http://www.crazykenband.com

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