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文/矢島裕紀彦

西郷隆盛は漢詩をよくした。維新後、鹿児島を訪ねてきた旧庄内藩の有志の前で示した一首がある。

幾歴辛酸志始堅
丈夫玉砕愧甎全
一家遺事人知否
不為児孫買美田

もとの漢詩は、七語四句からなる「七言絶句」。もっとも人口に膾炙しているのは、最後の「児孫の為に美田を買わず」ということばであろう。

その全文を、読み下し文に直すと、以下のようになる。

幾たびか辛酸を歴(へ)て志始めて堅し
丈夫玉砕して甎全(せんぜん)を愧ず
一家の遺事人知るや否や
児孫の為に美田を買わず

文献資料によって、『感懐』『偶成』『偶感』など異なる題を付されているこの漢詩、解釈は次のようになろう。

「人間の志というものは、繰り返し辛酸をなめることではじめて堅固になる。真の男子たる者、その志を貫くため玉となって砕けることを本懐とし、志をまげ瓦となって生きながらえることを恥とする。自分が家法として伝え遺したいことがひとつあるが、それが何であるかを知る人があるか知らん。それは、子孫のためにといって良い田を買わない、ということである。」

この詩の根底にあるのは、西郷の私心のなさだろう。

西郷にはこんな逸話もある。

あるとき、西郷が坂本龍馬を鹿児島の自宅に招いた。家が粗末で雨漏りしていたため、夫人は面目ないから雨漏りを直してくれるよう西郷に頼んだ。すると西郷はこう答えたという。

「今は日本中が雨漏りをしている。わが家だけ直しているわけにはいかない」

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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