文/矢島裕紀彦

幕末維新の英傑、薩摩の西郷隆盛(さいごう・たかもり、1828-1877)は、明治10年(1877)まで生存したにもかかわらず、他の明治の元勲たちと異なり、一枚の写真も残していない。

実子でのちに京都市長をつとめた菊次郎は、「父は生前写真というものは唯の一度もとったことがありません」と証言している。

西郷の写真と思い違いされるものに、お雇い外国人のキヨソネによる半身の肖像画(コンテ画)がある。非常に写実的に描かれているため、繰り返し複製されるうち、ともすると肖像写真であるかのように勘違いされることがあるのだ。

だが、あの絵は、実際は西郷没後の明治16年(1883)に描かれたもの。顔の上半分は実弟の西郷従道(さいごう・つぐみち)、下半分は従弟の大山巌がモデルとし、さらに近親者や知己の証言を組み入れて描き上げられたという。

はたして西郷は、いったいどんな面構えをしていたのだろうか。近代史に残る大きな謎である。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

※本記事は「まいにちサライ」2015年3月7日配信分を転載したものです。

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