悲劇の中で、中宮定子の懐妊

I:「皇子を生め」と伊周に強制のようにいわれていた中宮定子が懐妊していたことが描かれました。

A:ちょっと先走りますが、この時の子が長徳2年12月16日(12月20日説も)に誕生する脩子内親王です。つまり懐妊したのは3月末~4月だと思われます。伊周、隆家による花山法皇闘乱事件が起こって中関白家が存亡の危機に陥っているさなかということになります。

I:劇中では、伊周などから頻繁に早く皇子を生むようにいわれていて、白昼子作りに励む様が描かれましたが、歴史とはなんとも皮肉なものなのですね。

「春はあけぼの」がこんなに悲しい調べだったとは

『枕草子』を起筆する清少納言。(C)NHK

I:さて、長徳の変以降、中宮定子が鬱屈とした日々を過ごす中で、清少納言(演・ファーストサマーウイカ)がまひろ(演・吉高由里子)にどうしたらいいか相談します。まひろは、清少納言が高価な紙を中宮定子から下賜されていたことを思い出して、それを使って何かできるのでは、と提案。一条天皇が同じ紙に司馬遷の『史記』を書写したけれど、自分はこの紙に何を書こうかと定子が聞くと、清少納言はすぐに「しき→敷物→しきたへ(枕の枕詞)」の連想から、「枕にしましょう」と答えたシャレで返したという話をまひろに楽しそうに話していました。これは『枕草子』の跋文(あとがき)に書かれていることなんですよね。

A:『光る君へ』での吉高由里子さんとファーストサマーウイカさんのやり取りは、紫式部と清少納言の物語のようでいて、まひろとききょうの物語と考えて見た方がすとんと腑に落ちます。ふたりとも生年も没年も不明な存在。史料はほとんど残っていません。そのふたりに作者の大石静さんが新たな「命」を吹き込んでいる。そうすることで、一条天皇と中宮定子の悲劇がはっきりとした輪郭で私たちの目の前に再現されているわけです。

I:私はそのさじ加減が絶妙だと感じています。『方丈記』『徒然草』と並ぶ日本三大随筆といわれる『枕草子』が1000年以上経過した令和の世にこれほど鮮烈に胸に迫ってくるとは……。「春はあけぼの」「夏は夜」「秋は夕暮れ」……。『史記』を四季にかけてもいるのですよね。「蛍の多く飛び違ひたる」の場面で、嗚咽にかわっていました。『枕草子』の冒頭に涙する日がくるなんて……。

A:中宮定子派の方々は、それぞれ『枕草子』のお気に入りの章段があると思います。劇中では描かれないそれらの章段を脳内で再生する。きっと今までとは違った思いが込み上げてくるのだと思います。そして、『枕草子』という書が中宮定子への鎮魂の書なのだということを印象づけられました。

I:一条天皇と中宮定子、ふたりを見守る中関白家の華やかな日々を後世に残すという清少納言の使命感から生まれた随筆なのでしょうね。一条天皇と中宮定子のこと、清少納言が願ったように、記憶に留めておきたいですね。

道長への「一途な愛」を貫くまひろ。次ページに続きます

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