「私にお預けくださいませ」黒幕は源倫子!? 衝撃の長徳の変、真相に迫る【光る君へ 満喫リポート】20

ライターＩ（以下Ｉ）：第20回では「長徳の変」と呼ばれる政変が描かれました。

編集者Ａ（以下Ａ）：長徳の変は、日本史上屈指の勘違いに起因する政変です。内大臣藤原伊周（演・三浦翔平）は藤原為光（演・阪田マサノブ）の三の君光子（演・竹内夢）のもとに通っていたのですが、この日訪れると屋敷前に立派な牛車がとまっています。さては、三の君は自分以外の男性とも会っていたな、と勘違いしてしまうのです。

Ｉ：実際には三の君の妹である四の君（儼子＝たけこ）のもとに通っていた別の男性とバッティングしただけなのですが、伊周は完全に勘違いしてしまいます。そのことを聞いた弟の隆家（演・竜星涼）とともに屋敷に戻って、四の君に通っていた男性を脅そうと矢を放ったという事件です。

Ａ：矢を射られた男性が花山法皇（演・本郷奏多）だったことで事件は大事になります。法皇は「私はここにはおらぬ。私はここに来ておらぬて」としきりに叫んでいましたが、出家の身で女性のもとに忍んでいるというのはやはり外聞が悪いのでしょう。本来であれば隠ぺいしたかったのだと思いますが、忍んでいた屋敷が道長（演・柄本佑）と親しい藤原斉信（演・金田哲）宅だったこと、死人も出たということで、すぐさま道長はもとより一条天皇（演・塩野瑛久）らのもとに情報がもたらされます。

Ｉ：政変というと「黒幕」がいて、政敵を追い落とすために陰謀をめぐらすことが多いですが、長徳の変はどうだったのでしょう。

Ａ：伊周の政敵というと藤原道長ということになるのでしょうが、長徳の変に関しては､伊周が墓穴を掘ったという事件です。『光る君へ』で時代考証を務めている倉本一宏先生の『一条天皇』（人物叢書／吉川弘文館）によると､事件処理を主導したのは一条天皇ということです。当欄では、前週も英明な一条天皇について言及しましたが（https://serai.jp/hobby/1185847）、今週の伊周、隆家兄弟の事件への扱いについて、中宮定子（演・高畑充希）の身内だからといって、特別扱いせずに果断に厳しい処分の指示を出す姿が描かれました。現代の政界などでも、身内の不祥事には甘くなりがちで、ともすればダブルスタンダード的な対応をしがちですが、為政者としてのあるべき姿を体現した一条天皇という帝がいたことを記憶に留めておきたい、という場面になりました。

Ｉ：加えて、この時検非違使別当として事件処理にあたっていたのが実直な藤原実資（演・秋山竜次）だったことも、一条天皇の指示がすっと実行されたことにもつながったのでしょうね。

Ａ：ということで、伊周が大宰権帥（ごんのそち）、隆家が出雲権守に左遷されることになります。大宰府の官職は、上から大宰帥（そち）、大宰権帥、大宰大弐、大宰少弐と続きます。前週に藤原宣孝（演・佐々木蔵之介）が筑前守兼大宰少弐の任を終えて京に戻って来たので、大宰少弐は登場済みの官職になります。

Ｉ：大宰権帥といえば、昌泰４年（901）に右大臣から大宰権帥に左遷された菅原道真が思い出されます。

Ａ：菅原道真は、不遇の中で任地の大宰府で亡くなりました。その後、藤原時平の39歳での病死など、道真左遷に関わった人物の死が相次ぎ、道真の怨霊だということで恐れられました。極めつけは延長８年（930）に内裏清涼殿への落雷で藤原清貫などこれも道真左遷に関与したといわれる貴族に死傷者が出て、道真の怨霊の恐怖に貴族社会はおののくのです。

Ｉ：道真左遷から70年近く経った安和２年（969）にも「安和の変」で左大臣・源高明が大宰権帥に左遷されました。高明は、３年後に帰京を許されましたが、天元５年（982）に亡くなるまで不遇の日々を過ごすんですよね。

Ａ：源高明は、道長の妻のひとり源明子（演・瀧内公美）の父です。伊周もそうした前例を把握していて、大宰府に左遷されることは、政治的な死であることを理解していたのでしょう。ぎりぎりまで抵抗する姿が描かれました。

【ほんわか枠と思われた源倫子に不穏な動き!?　次ページに続きます】