久方ぶりに登場した帰蝶(演・川口春奈)に注目が集まった『麒麟がくる』第30話。信長(演・染谷将太)は、正親町天皇(演・坂東玉三郎)から勅命を下されて無邪気に喜ぶ。
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ライターI(以下I):冒頭から復活した帰蝶(演・川口春奈)の話題から入りたいと思います。本当に久しぶりの登場でしたが、演技の切れ味がいっそう鋭くなった印象です。
編集者A(以下A):本当ですね。特に奇妙丸(演・柴崎楓雅)に目で指図した場面がキレっキレで、ゾクゾクさせられました。当欄では、序盤から帰蝶に熱視線を送ってきただけに感慨深いですね。 (【早くも歴代No.1の声も飛び出す 川口春奈演じる 信長正室・帰蝶(濃姫)への期待】 【川口春奈が熱演! 織田家に新風を巻き起こす〈女軍師・帰蝶〉を見逃すな!】 【「父上と私の戦じゃ」――。圧巻演技の〈女軍師・帰蝶〉】 )
I:光秀(演・長谷川博己)のことを〈泣き虫十兵衛〉と奇妙丸に教え込んでいたことが発覚しました。思わず笑っちゃいました。
A:『麒麟がくる』では、光秀と帰蝶はいとこの設定ですからね。そういう微笑ましい場面もいいですね。
I:その帰蝶ですが、光秀から朝倉を討つべきかと問われて、〈我が兄の子龍興が朝倉をそそのかし〉としたうえで、きっぱりと〈朝倉をお討ちなされ〉と進言しました。その演技は自信に満ち溢れているようでした。終盤に向けてどんどん出番を増やしてほしいですね。
A:本当ですね。〈信長さまから(光秀の様子を)時おり聞いていた〉という台詞がありましたが、台詞の中だけの登場は勘弁してほしいです(笑)。しかし、川口春奈さんは時代劇姿が板について来ましたね。今後も折に触れて大河に主要キャストで登場してもらいたいです。
ヒロイン駒と将軍義昭の関係が!
I:貧しい人や病の人のための施設を作りたいと願う将軍足利義昭(演・滝藤賢一)に、駒(演・門脇麦)が丸薬で得た資金を用立てるようになりました。
A:なんか、将軍が変装して駒と蛍を見にいくという展開になりました。その後に蚊帳の中で、なんだかただならぬ関係になってしまいます。〈そなたと会うていると清々しくなるから不思議じゃ〉なんて言っていましたね。
I:衝撃的な展開に、私は絶句しそうになりました。え?何?なんで?という感じです。そういう関係になっちゃうんですか、って。
A:史実では、義昭が貧しい人のために施設を造ったという話はありません。ということは、駒と義昭の関係に注目せざるを得ない展開になるのかもしれませんね。
正親町天皇と信長の関係はどうなる?
I:先週から御所の壁に焦点が当たっているのが気になっています。先週は伊呂波太夫(演・尾野真千子)が御所の壁について光秀に語る場面がありましたが、今週は信長(演・染谷将太)が、御所の崩れた塀を修繕したことが描かれました。父信秀が御所の塀の修繕に4000貫出していたことが、知られていますが、信長の〈父上への供養だと思うてのう〉という台詞は印象的でした。何か御所の壁が今後の伏線にでもなるのですかね?
A:御所の塀が伏線かどうかはわかりませんが、光秀と信長が対面した庭には鷹がいました。信長の鷹好きは知られていますが、史実では鷹を通じて近衛前久(演・本郷奏多)と昵懇の関係になったことが知られています。『麒麟がくる』の中では、信長と前久はまだ会っていませんが、その伏線なのかという印象です。
I:そのほか、今週も気になる場面が続出でした。正親町天皇(演・坂東玉三郎)と東庵(演・堺正章)が碁を打ちながら信長の人物像について語っていました。天皇の御姿がはっきり出てこないのは意図的なんでしょうね。当欄ではこれまで東庵先生について触れたことはなかったのですが、まさか帝と碁を打てる関係だったとは驚きでした。
A:私は、信長が〈勤王〉っぽく描かれているのが印象的でした。朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)を討つための大義名分を正親町天皇から得ようとしましたから。
I:『麒麟がくる』では従来の信長像とは異なる視点で信長を描くというのが命題ですから、
帝に拝謁後に、褒められたと無邪気に喜ぶ信長の姿は新鮮でしたね。
A:信長といえば、〈天下布武〉の印判が有名ですが、正親町天皇との拝謁後に信長が語っていたのが〈天下静謐(せいひつ)〉でした。帝から〈天下静謐のためにいっそう励め〉〈この都、畿内を平らかにすべし〉と。
I:〈天下布武〉と〈天下静謐〉では印象が異なりますね。
A:かつて〈天下布武〉といえば「武力を以て天下を制す」というふうに受け止められていましたが、近年では〈天下とは、都と畿内限定〉で、〈武〉は単純に武力を指すのではないという説が主流になっています。
I:ということは、〈都と畿内を平らかに〉という〈天下静謐〉とあまり変わらないということなんですね。
伏魔殿京都 三淵藤英の「いかにも京都」な挙動
A:さて、今『麒麟がくる』では「京伏魔殿編」が進行しているさなかです。摂津晴門(演・片岡鶴太郎)も悪そうですが、今週は三淵藤英(演・谷原章介)の「いかにも京都」な挙動が目につきました。
I:摂津晴門が、朝倉義景の嫡男阿君丸毒殺に三淵藤英が関与していたことを暴露しました。
A:義景嫡男を殺して、義景の上洛意欲を削いだうえで信長を頼ったにもかかわらず、朝倉攻めに対して〈公方さまは朝倉の世話になったので大義名分が必要〉とのたまって平然としていることが解せません。
I:いかにも京都って感じですね。前半戦は将軍義輝(演・向井理)側近として忠臣面をしていましたが、ドラマ内でさしたる理由も語られないまま、義輝から離反していました。その後は義昭擁立に関わっていたにもかかわらず、今では摂津晴門に同調しているかに見えます。
A:日本の歴史は、節目節目でこうした〈伏魔殿 京都〉に翻弄されてきました。三淵の動向ももう少し丁寧に描いてくれたらより伏魔殿のひどさが浮き彫りになったと思うのですが。
I:まあ、でも今年は〈尺が足りない問題〉を抱えていますから。ないものねだりはやめましょう(笑)。ところで、今週は松永久秀(演・吉田鋼太郎)も岐阜城で登場しました。
A:堺の豪商から献上された名器の品定めをしている最中でした。しかし、せっかく松永久秀が登場しているわけですが、東大寺焼き討ちのエピソードが完全にスルーされたのは残念でしたね。今後の松永久秀の去就に要注目ということはいっておきます。
●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。 編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり