父・織田信秀が亡くなり、風雲急を告げる織田家。まだ若い信長、帰蝶夫妻は、この危機をいかにして乗り越えていくのか?

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まさに〈女軍師〉の雰囲気を醸し出す帰蝶。

まさに〈女軍師〉の雰囲気を醸し出す帰蝶。

ライターI(以下I):織田信秀が亡くなった翌週の回ですから、信秀の葬儀がどう描かれるのか楽しみにしていたのですが。

編集者A(以下A):信長が葬儀に遅れてでてきて、位牌に向かって抹香を投げつけたという『信長公記』に描かれたエピソードですね。『麒麟がくる』は従来の信長観を覆すというのがコンセプトですから、ここは敢えてスルーという選択だったのでしょう。

I: まあ、帰蝶の機転で信秀の「尾張を任せる」という“遺言”に信長が救われたという設定でしたからね。それにしても第13話は、「斎藤利政(道三)親子の確執」「信長に会見を申し込む道三」「藤吉郎の初登場」と盛りだくさんでした。

A:道三と高政(義龍)親子の確執も緊迫度を増してきました。土岐頼芸(演・尾美としのり)の愛鷹が殺されているシーンは『ゴッドファーザー』を彷彿させるような展開でした。

I: 土岐頼芸は土岐家最後の美濃守護となります。『麒麟がくる 紀行』では諸国を渡り歩いた後に稲葉良通(演・村田雄浩)の計らいで美濃に戻ったと紹介されていました。

A: そうですね。最後は甲斐の武田家に寄寓していたわけですが、信長の武田攻めの際に、当時信長に従っていた稲葉良通に保護されたというわけです。没年が天正10年(1582)と紹介されていましたが、美濃に戻って間もなく亡くなったんですね。この年は本能寺の変で信長も亡くなっています。

I: 源氏の名門も最後は悲しい末路だったのですね。

A:土岐頼芸の子孫は、江戸幕府の旗本として存続します。頼芸の孫・頼泰の次男頼照は、旗本梶川家に養子に入りました。

I: 殿中松之廊下で吉良上野介に斬りかかった浅野内匠頭を「殿中でござる!」と羽交い絞めにした梶川与惣兵衛のことですよね。頼芸のひ孫になるのですね。歴史って本当に数奇です。

A:下剋上の時代ですし、名門の没落が多いのもしょうがないことです。土岐頼芸も時代に翻弄された同情すべき存在なのかもしれません。

道三×信長会見で暗躍した〈女軍師・帰蝶〉

I:斎藤道三役の本木雅弘さんの演技がいよいよ核心に突入した感があります。一挙手一投足見逃せない域に達してきた感があります。

A:道三と信長の関係は戦国史の中でも特異な関係かと思います。今後その関係がどのように描かれるのか注目していきたいですね。今週は、帰蝶の動きもハラハラさせられるものでした。伊呂波太夫(演・尾野真千子)と対峙する砂金のシーンは名場面でした。

I:伊呂波太夫が、マムシに飲みこまれる直前の蛙のような表情をしているように感じました。

A:そう見えましたか? あの場面の帰蝶の表情には、いろいろな意味でゾクゾクさせられた人が多かったかもしれません。お二方とも、まさに熱演でした。

I:帰蝶は、影で暗躍する織田家の軍師のような感じがしました。まさに〈女軍師・帰蝶〉。信長との〈父上と私の戦じゃ〉、〈わしの戦を横取りするつもりか?〉というやり取りは心に響きましたね。

A: 当時の信長の立場を言い表すわかりやすいセリフもありました。〈父上様がお亡くなりになって、まだわずかというのに清須といい、岩倉の織田といい、よってたかって殿に戦をしかけて参る〉、〈今のわしは四面楚歌じゃ。父上は死に、家老も死に、東には今川の軍勢、国の中もみな敵だらけぞ〉

I: この後、よくぞ天下を目指せたという時期ですね。冒頭、道三のセリフで〈京では戦で鉄砲が使われ始めたそうじゃ。将軍も城の壁を鉄砲に備えて強固にしたと聞く〉とありましたが、道三や帰蝶の援護が必要だったことがわかります。

A:世界史的な大航海時代の潮流に直撃されるている様子が描かれているわけです。世の中がダイナミックに変貌を遂げる中でもがく人々がうまく描写されている感じがしました。

I:次週以降も〈女軍師・帰蝶〉から目が離せませんね。さて、今週は、ついに藤吉郎(演・佐々木蔵之介)が初登場しました。書物を読んでいて読めない字を偶然居合わせた駒(演・門脇麦)に聞くという場面でした。〈ある人、弓射ることを習ふに、諸矢をたばさみて、的に向かふ。師の曰く、初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり〉と『徒然草』92段が出てきました。

ついに登場した藤吉郎(後の羽柴秀吉)。

ついに登場した藤吉郎(後の羽柴秀吉)。

A:『徒然草』といえば、吉田兼好の有名な随筆ですね。室町時代に写本が普及して多くの人に読まれていたといいます。〈二本目の矢があると思うと、最初の矢をおろそかに射てしまう〉という戒めの段を登場させているのは、何か重要な伏線なのでしょうか。

I: 第1話で斎藤道三が、光秀のことを〈四書五経をわずか2年で読み上げた〉と称賛していました。その時は、6年かかったという息子・高政(義龍)との対比かと思いましたが、実は、藤吉郎との対比だったんですよ。

A: なるほど。ふたりは後に織田家中最大のライバルとなるわけですが、この段階では、読めない字がある藤吉郎と「四書五経」に通じた光秀の間に明確に差があったことを示唆しているわけですね。

I:それにしても佐々木蔵之介さんの行商人風・藤吉郎も堂に入ってました。

A:まだ、織田家の「お」の字ともかかわりない時代ですね。ともあれ、これで、信長、秀吉、家康と後に三英傑と呼ばれる人物が出揃いました。主人公光秀の影が薄くなっている感もありますが、今後の展開がますます楽しみになってきますね。

I: 本当ですね。まずは聖徳寺の会見がどう描かれるのか。次回も楽しみですね。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。

●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

 

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