文/川口陽海
突然腰に激痛が走り、動けなくなってしまった……。
『魔女の一撃』とも言われる、いわゆる『ぎっくり腰』は、多くの方が人生のうちに一度は経験すると言われています。
『ぎっくり腰』とは
日本整形外科学会のHPによると、次のように説明されています。
いわゆる「ぎっくり腰」は急に起こった強い腰の痛み(腰痛)を指す一般的に用いられている名称(通称)で、病名や診断名ではありません。
何か物を持ち上げようとしたとき、腰をねじるなどの動作をしたときなどに起こることが多いですが、朝起きた直後や何もしないで起こることもあります。
痛みの原因はさまざまで、腰の中の動く部分(関節)や軟骨(椎間板)に許容以上の力がかかってけがしたような状態(捻挫、椎間板損傷)、腰を支える筋肉やすじ(腱、靱帯)などの柔らかい組織(軟部組織)の損傷などが多いと考えられます。
『ぎっくり腰』の原因
『ぎっくり腰』にはっきりとした原因はなく、さまざまな要因が重なって起こると考えられます。
季節要因はないと考えられていますが、筆者の体感としては、やはり12月~1月頃の寒くなりはじめの時期や、年末年始の多忙な時期に、冷え、疲労、暴飲暴食、睡眠不足などが重なると起こりやすい印象があります。
良くあるのが、
■大掃除で重い物を持った拍子に、またはそのあとや翌日
■年末の忙しさを何とか乗り切り、年末年始休暇に入ってほっとしたとたん
などにぎっくり腰になり、動けなくなってしまう……、というパターンです。
『ぎっくり腰』の経過
1週間以内に約40%の人が回復し、3週間で60~85%、6週間以内に90%の人が回復するというデータがあります。
1~6週間ほどでほとんどの人が良くなりますので、痛みはつらいと思いますが、あまり心配はありません。
「3日激しく痛んで、1週間で良くなる」というのが、典型的な回復パターンです。
腰を痛めた直後の2~3日はかなり強い痛みに襲われます。
しかし日に日に痛みは薄れていき、1週間程度で痛みはかなり楽になります。
『ぎっくり腰』の予防法
「これをしておけば絶対ぎっくり腰にならない!」というような予防法は、残念ながらありません。
しかし、次のようなことに気を付けることで、『ぎっくり腰』になるリスクをある程度減らすことができます。
■日ごろから適度な運動をする
■十分な睡眠をとる
■暴飲暴食をしない
■腰や下半身を冷やさないようにする
■床のものを拾う時は、膝を曲げてしゃがむ
■重い物を持ち上げる時は、しっかりと身体にひきつけて、身体全体の力を使う
また腰痛の予防改善法として、筆者の腰痛トレーニング研究所では、体幹インナーマッスルのトレーニングをおすすめしています。
体幹インナーマッスルを強くし、また体幹の上手な使い方、動かし方を身につけることで、ぎっくり腰を予防することができます。
筆者は以前は年に数回はぎっくり腰に悩まされていました。
しかし、体幹インナーマッスルトレーニングにより体幹のコントロールを身につけたところ、10年以上ぎっくり腰とは無縁の生活を送ることができています。
危険な症状
ほとんどの『ギックリ腰(急性腰痛症)』はあまり心配ありません。
しかし、中には危険な病気やケガが原因で腰痛がおこり、場合によっては命に関わることもあります。
例えば骨折、悪性腫瘍、脊椎感染症、解離性大動脈瘤、強直性脊椎炎、馬尾症候群、腎臓結石・尿管結石、膵炎(すい炎)、婦人科系の病気などです。
次の項目にいくつか該当するものがあれば、病院で精密検査を受けることをおすすめします。
◆最近高い所から落ちたり、交通事故にあったりした
◆絶えず痛みがある(夜間も痛む、楽な姿勢がない、動作と無関係に痛むなど)
◆胸にも痛みがある
◆悪性腫瘍の病歴がある
◆長期間ステロイド剤を使用している、または使用していた
◆覚せい剤などの静脈注射、免疫抑制剤の使用、HIV陽性
◆全般的に体調が悪い
◆原因不明で体重が減少している
◆腰を前に屈めることができない、その状態が続いている
◆背骨を叩くと痛みがある
◆身体が変形している
◆発熱がある
◆排尿しづらい、残尿感、尿失禁、便失禁、肛門や会陰部の感覚消失などがある
これらにあてはまるものがあったとしても必ずしも危険な病気があるとは限りませんが、検査をしなければ判定が出来ません。
このような症状がある場合は、安心するためにも病院で検査を受けましょう。
万が一危険な病気やケガが見つかった場合は、医師の指示に従い、腰痛そのものより原因となっている病気やケガの治療に専念してください。
『ぎっくり腰』の対処法
上記のような危険な症状がない場合、ぎっくり腰(急性腰痛)の対処法には次のようなポイントがあります。
(1)安静にし過ぎないでなるべく活動性を維持する
(2)温熱療法は効果的
(3)必要に応じてコルセットを使う
以下にエビデンスも紹介しながら具体的な対処法をご説明します。
安静にし過ぎないでなるべく活動性を維持する
腰を痛めた直後には痛みで動けないか、動くのがとても怖いかもしれません。
まずはあまり痛まない姿勢でしばらく安静にしましょう。
少し休むことで痛みがやわらぐことも多いので、できたら横になって楽な姿勢をとってください。
●横向きで膝を曲げ、身体を少し丸める
●仰向けで膝の下にクッションなどを入れ、軽く膝を曲げる
などの姿勢が良いでしょう。
数十分~数時間安静にすると、少し動けるようになるかもしれません。
動いても多少の痛みがあるくらいなら動いても良いと思います。
動くと激しい痛みがある、とても動けそうにない、という状態でしたら、1~3日程度は安静にした方が良いでしょう。
ただし、3日以上の安静は、かえって回復が遅くなってしまうということがわかっています。
以前はぎっくり腰になったらまず安静を指示されていましたが、近年では『安静の効果は低い』というエビデンスレベルの高い報告が多数出てきています。
男女問わず、16~80歳の急性腰痛(発症から4週間未満、または慢性腰痛が悪化してから4週間未満のもの)を対象にした場合、非特異的腰痛に対しては、ベッド上安静が痛みに応じた活動性維持よりも、痛みの程度と身体機能の面でより劣っている。
The updated cochrane review of bed rest for low back pain and sciatica.Spine (Phila Pa 1976). 2005 Mar 1;30(5):542-6.
長期にわたって安静を維持したり、仕事や学校を休んだりした場合は回復が遅れます。
痛みで全く動けないなら別ですが、少しずつ動き、できるだけ仕事や学校、家事など日常生活を続けた方が筋力体力を維持することができて、回復が早いのです。
無理をする必要はありませんが、痛みに負けず(この気持ちが大事!)、できるだけいつもどおりの生活を送ってください。
温熱療法は効果的
急性腰痛(発症から4週間未満)と亜急性腰痛(発症から4週間以上、かつ、3か月未満)においては、温熱療法が強く推奨されています。
治療に関係なく、急性または亜急性腰痛の患者のほとんどが時間の経過とともに改善することを考えると、臨床医と患者は、表面熱(中等度の質のエビデンス)、マッサージ、鍼治療、または脊椎操作(低品質のエビデンス)を伴う非薬物治療を選択する必要があります。(グレード:強く推奨)
Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians.Ann Intern Med. 2017 Feb 14.
■お風呂で温まる
■レンジで蒸しタオルを作り患部に当てる
■使い捨てカイロで患部を温める
などはあまり費用もかからず、自分で出来る効果的な対処法です。
必要に応じてコルセットを使う
痛みが強く、身体を動かすのに不安がある場合、一時的にコルセットを使うこともお勧めです。
腰痛にはコルセット(腰痛ベルト)というイメージがありますが、実はコルセットには痛みを改善する効果はあまりありません。
しかし、日常生活の機能障害には改善効果があると考えられています。
コルセットを装着すると腹圧を高める補助となり、動作が楽に安心になります。
それにより活動性の維持ができますので、結果的に回復が早まる可能性があります。
しかし長期間の使用は、かえって筋力低下を招く場合がありますので避けましょう。
ギックリ腰がなかなか治らなかったら?
ほとんどのギックリ腰は、前記のように1~6週間程度で完治します。
しかし次のような要因が重なると、なかなか治らず慢性化してしまう場合があります。
◆過労
◆睡眠不足
◆ストレス
◆運動不足
◆栄養不良
ある程度症状が良くなったけど完全に治らない、というような状態が2か月以上続くようでしたら、医療機関やその他専門家に相談された方が良いでしょう。
またそのような場合はこちらの過去記事が参考になるかもしれません。
長引く腰痛や坐骨神経痛を早く治すには?【川口陽海の腰痛改善教室 第3回】
また以下の記事で様々な腰痛・坐骨神経痛改善エクササイズをご紹介しております。
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文・指導/川口陽海
厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616
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