文/満尾正

新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。

食品添加物の危険性が指摘されているにもかかわらずメーカーがそれを用いるのは、保存性が高くなったり、味わいが増したりするなどの利点があるからです。ただ、その利点はメーカーにとってのものであって、消費者のためではありません。

「いや、保存性が高いほうが消費者にとっていいではないか」という声もあるかも知れません。しかし、よく考えてみれば消費期限が長くなって得をするのはメーカーです。そのほうが、廃棄も少なく在庫管理もしやすいわけですから。

では、味わいが増すことについてはどうでしょう。美味しいものを食べさせてもらえるなら消費者の得になるのでしょうか。

でも、実はその味は本当の美味しさではありません。「美味しい」と錯覚させられているだけです。

自然の食べ物が持っている力によるのではなく、添加物によってつくりだされた味わいは、私たちを・中毒状態・にします。とくに、「後を引く」ものや、「やめられない」ものにはリンが入っていると考えて間違いないでしょう。「ちょっとだけ」と思って食べ始めたスナック菓子なのに、結局、一袋食べてしまった。甘いものを食べないでいるとイライラしてくる。清涼飲料水を1日に1リットルも飲んでしまう。

このような消費者行動は、食品メーカーにとってありがたいもの。食品メーカーにとって利益率が高いのは、リピート購入されるもの。消費者に「また、あれが食べたい」と思ってもらえる商品だからです。

大手ファストフードチェーン店は、そのオープンにあたって「いかに子どもたちをつかむか」を考えたと言われています。子どもの頃にその味に慣れさせ、一種の中毒状態をつくってしまえば、一生リピートしてもらえるからです。

今の働き盛りの世代は、そういう戦略のなかで育った第一世代と考えられます。もしかして、すでに取り込まれており、その危険性に気づかず、自分の子どもたちにも同じことをしているかも知れません。

回転寿司店やファミリーレストランなど、「家族連れに優しい、子どもに優しい」をウリにしているところは多いですね。その「優しさ」の1つとして、ソフトドリンク飲み放題、いわゆる「ドリンクバー」があります。

しかし、そこには、リンのような添加物や糖類がたっぷりのドリンクがたくさん並んでいます。子どもに何杯も飲ませていい代物ではありません。 

沖縄が長寿日本一から転落した理由

沖縄県はかつて、日本一の長寿県として知られていました。1980年、85年には男女ともに都道府県別の平均寿命でトップになりました。噂は世界に広がり、Okinawanという健康長寿を意味する言葉まで生まれました。その頃に中高年になっていた世代は、ゴーヤ、島豆腐、もずく、アグー豚といった昔ながらの沖縄の食べ物で育っています。

ところが、沖縄は第二次世界大戦が終わってからも長くアメリカの統治下に置かれ、その間、ハンバーガーやフライドチキン、フライドポテトなどのファストフードや、スパムと呼ばれる加工肉が入ってきました。

こうしたものを食べて大人になった今の中高年世代は肥満が多く、とくに男性は他県と比べて肥満率が突出しています。

肥満が増えるのと同時に、沖縄では糖尿病、心臓疾患が増えて平均寿命も短くなり、今は長寿県の見る影もありません。

このように、食事の影響は「すぐ」には出ません。腐ったものを食べて下痢でもしたなら別ですが、徐々に太ったり、血圧が上がったり、免疫力が落ちたりしていくために、「こんなものを食べていたら良くないかも」と、なかなか思い至らないのです。

でも、だからこそ怖い。下痢を起こしたなら、適切な治療を施せば体はもとに戻ります。しかし、いったん失われた免疫力はなかなか復活しません。 それになにより、ファストフードや清涼飲料水などの中毒状態になっていれば、それを「食べたい」「飲みたい」という気持ちが優先されます。「やめようと思っているのに飲み食いせずにはいられない」のです。

こういうものを、いかに遠ざけるか、それとも気にせずに食べ続けるのか。

食べ物については、「いいものを摂る」ことも重要ですが、「悪いものをやめる」のも、とても大事。いくらランチにサラダを食べたからといって、一緒に甘い缶コーヒーや清涼飲料水を飲んだら台無しです。「一利を興すは一害を除くに如かず」という中国の古典にある言葉の通りです。

自分に合った「いい食べ物」を選んで食べることが面倒に思える人は、まずはこうした「悪い食べ物」をやめることだけでも始めてみてはどうでしょう。遠からず体調の変化を実感できるはずです。

満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。

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