文/中村康宏
肥満は糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病を合併することが多く、最終的には寿命を短くしたり、健康的な生活を妨げる要因になります。
肥満は「食事」と密接に関係することは疑う余地もありませんが、食行動や食欲を上手くコントロールするのは容易ではありません。今回は、「わかっているけどやめられない!」という原因となる「食行動の決定要因」と「食欲のメカニズム」について解説します。
■「わかっているけどやめられない」をなくすために
食行動とは「何をいつ食べるか」という活動を指します。ではその食行動はどのように決定されているのでしょうか? じつは、食行動の影響因子を紐解くと、食生活を正すヒントが見つかります。しかし、日本の食育や栄養教育において「食行動」の重要性はあまり強調されていません。「わかっているけどやめられない」という誰もが経験のある問題を解決するためには、食事や栄養に関する知識だけがあっても不十分で、食行動の知識も必要です。
■食行動の研究は「マズイものを美味しく」することから始まった!
そもそも食行動に関する科学的研究は、第二次世界大戦下のアメリカで始まりました。当時、長引くと予想された戦況において、アメリカ政府は食糧不足に陥ることを危惧し、国民に普段食べないものまで食糧とするように働きかける必要があると考えました。例えば、家畜の内臓(レバーやホルモンなど)は当時「人間が食べるものではない」と考えられ、捨てられていました。そこで「これをいかにして食べさせるか」を課題とする研究がスタートしたのです。これが「食行動」に関する科学的研究の始まりです(*1)。
■あなたの食行動はこうして決まっている!
以下に代表的な食行動影響因子を6つ列記します(*2)。わかっているけどやめられない!という方は、ご自身の食行動がどの因子の影響を強く受けているか、という点から食行動を見直してみましょう。
【味】甘味、塩味、こってりした味付けのものを人間は好むと生物学的にわかっています。さらに、これらの味覚は中毒に似た変化を脳内にもたらすことがわかっており、少し食べるともっと欲しくなってしまいます。
【感情】感情は食事選択に与える影響は大きいです。ストレスがたくさんかかっているときは不健康な食事選択をしてしまうことが報告されています。
【値段】80%の消費者が、値段が最も重要な要素だと考えています。また、値段は健康的な食事に関する歪んだ認識を生み出すことがわかっています。一般的に「健康的な食事は栄養素のバランスの取れた食事のこと」と考えられていますが、お金に余裕がない人ほど「健康的な食事は不健康な食事よりずっと値段が高い」と考える傾向にあります。
【手軽さ】多忙な毎日を送っている人の中では手軽さは重要な要素です。仕事環境は食事を準備する時間に影響を与えますが、時間に余裕がないと、お惣菜や既に調理された料理、缶詰スープや温めるだけの食事を選びがちです。
【文化・環境】食行動は、育ってきた環境や所属する組織や環境に影響されてしまいます。例えば、「現代社会」という大きな環境において、食物が24時間いつでも簡単に手に入る社会状況は食べ過ぎを助長していると言えます。また「たくさん食べることがよし」とされる環境であれば、どうしても食べる量が多くなってしまいます。
【宣伝】TVクッキング番組やインターネットは70% の人が食事を考える際に参考にしていることがわかっています。そして、食品栄養表は栄養情報を見る上で重要な要素となっています。食品会社の過剰な宣伝や偏ったアピールに影響を受けがちです。
もう一つ、食行動に大きな影響を与えるのが「食欲」です。ここからは食欲のメカニズムについて詳しく解説していきましょう。
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