文/中村康宏
肥満というのは万病の元。肥満にならないように、体重を一定に保つには、消費するエネルギーと同じ量のカロリーを摂取すれば良いのですが、この等式を鵜呑みにしてはいけません。
ポテトチップスやファーストフードがメインの食事でもいいのでしょうか? どの栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)からカロリーを摂取してもよいのでしょうか?
実は、心臓病、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病関連疾患を防ぐような食べ物や食事パターンについては、たくさんの研究があります。そこで今回は、研究に基づいた「健康にいい脂肪」の正しい取り方にしぼってご紹介しましょう。
■「低脂肪食品」に潜むワナ
1920年代以降、ファッション雑誌等の影響で、女性たちに“細い体がいい”という概念が定着し始め、プロポーションを保つためには脂肪摂取を避け、低脂肪食品を摂るのがいい、という考えが広まりました。そして長い間、健康維持とダイエットには低脂肪がいいとうたわれてきました。
しかし、これは炭水化物やタンパク質のカロリー(4kcal/g)より脂肪のカロリー(9kcal/g)の方が、同じ量でも2倍以上高い、
近年の研究結果では、この考えは否定されています。例えばアメリカで行われた研究では、30年間に、食事に占める脂質の割合が落ち続けているのに、肥満患者が急増しているという傾向が示されています(*2)。また他の研究でも、低脂肪ダイエットをすることと、普通の脂質量や高脂質の食事をすることとの間に、体重管理のしやすさに全く差はなく(*3)、病気の予防に関しても効果がなかったとの結果が出ています(*4)。それどころか、逆に高脂質の食事をしていたグループのほうが体重が減ったという結果も出ているのです(*5)。
問題は、低脂肪食品の多くが糖類を多く含むということです。例えば低脂肪乳(2%牛乳)を1カップ(180ml)飲むと、12.3gの砂糖を摂取することになります。つまりコーラ120ml、オレオ(ビスケット)約4枚分に値する砂糖を摂取していることになるのです。
とくに、低脂肪乳に使われる砂糖は、急速に吸収されてしまうもので、体重増加や糖尿病、心臓病などの病気になりやすいとされています。このような中で、ハーバード大学では、低脂肪乳は健康でないと位置付けています。
■脂肪の摂取は「量」より「質」が問われる
脂肪(脂質)の摂取は、健康維持にとって制限すべきものではありません。ただし健康にいい食事には、摂取する脂質の「量」より「質」が問題になってきます(*6)。
そもそも脂質には不健康な脂質(=トランス脂肪酸や飽和脂肪酸)と健康な脂質(=不飽和脂肪酸)とがあるのをご存知でしょうか。4万2000人の中年女性の体重を8年間観察した研究では、不健康な脂質は体重増加に関与し、健康な脂質を摂取し続けた人は体重増加しなかったと報告されています(*7)。
脂肪は、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸に分類され、不飽和脂肪酸は、さらにトランス型とシス型に分類されます。このうち、体にいいとされる脂質は、シス型の不飽和脂肪酸のみです(*8)。
シス型不飽和脂肪酸の代表的なものは、次のようなものです。
・αリノレイン酸・EPA・DHA(オメガ3):魚介類に含まれる
・リノール酸・アラキドン酸(オメガ6):植物油(ひまわり油など)
・オレイン酸(オメガ9):ナッツ・アボガド・オリーブオイル
オレイン酸を多く含むナッツは、カロリーは高いものの体重は増加せず、むしろ体重減少を助ける役割をし、タンパク質や繊維が豊富で、病気にもなりにくくなるとされています。さらにオリーブオイルは、先にご紹介した「地中海式食事法」でも多用されているとおり、確立された“体にいい食事法”の中心的役割を担っているのです。
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以上、今回は、体にいい脂肪の取り方についてご紹介しました。
脂肪は「量」より「質」を重視すること、また低脂肪食品の摂取がダイエットや健康維持に直結しないことを、ぜひ知っておいてください。そしてその上で、健康で病気になりにくい食事を意識し、良質な脂質を積極的に摂取するようにしましょう。
【参考文献】
(*1)La Berge AF. J Hist Med Allied Sci 2008.
(*2)Melanson EL, Ann Net Metab 2009.
(*3)Shai I , NEJM 2008.
(*4)Howard BV, JAMA 2006.
(*5)Sacks FM, NEJM 2009.
(*6)Mozaffarian D NEJM. 2011
(*7)Field AE. Obesity 2007.
(*8)e-ヘルスネット. 厚生労働省
文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。