文/中村康宏
糖尿病はどのようにして起こり、なぜ予防しなくてはいけないのでしょうか? 日常の診療において、医師から患者さんにこの答えを短時間で伝えるのは非常に難しいことです。
ただ実際に糖尿病になってしまうと、種々の合併症を誘発し、患者さんの日常生活は著しく損なわれます。それだけでなく、糖尿病になると寿命が約10年も短くなることが知られています(※1)。
今回は、近年のライフスタイルの変化と高齢化社会の進展に伴って社会問題となりつつある「糖尿病」の恐ろしさと対策について、その基本を解説します。
■糖尿病の怖さの理由
糖尿病は遺伝や薬剤によって起こることもありますが、その90%は生活習慣が原因となる「2型糖尿病」と言われるものです(※2)。この場合、何かきっかけがあり糖尿病になるというよりも、日頃の生活習慣から徐々に血糖値が上昇し、糖尿病へと至るのです。
糖尿病になると病状は徐々に進み、目が見えなくなる、人工透析を強いられる、手足の細胞が死ぬため切断しなければならなくなる、といった生活が一変するような事態が起こります。自覚症状がないまま進行することが多いため、注意を怠ると手遅れとなることも多いというのが怖いところです(※3)。
■糖尿病はこうして起きる
食事などで糖分を摂ると、インスリンやグルカゴンといったホルモンの働きによって血糖値がコントロールされます。このうち、すい臓から分泌されるインスリンは血糖値を下げるようにさまざまな臓器に働きかけますが、インスリンが大量に必要な状態が続くと、すい臓が疲れてしまいインスリン分泌機能が低下するのです(インスリン分泌不全といいます)。
また、高血糖が持続した状態や、脂肪が蓄積された体の細胞は、細胞内伝達シグナルが障害され、インスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性といいます)。そうすると、さらに血糖値が下がらなくなり、高血糖な状態が持続されてしまうという悪循環に陥るのです。
このように、インスリンの効きが悪くなった、もしくはインスリン量が高血糖を改善するのに不十分な状態が組み合わさり、糖尿病が引き起こされます(※4, ※5)。
■糖尿病になるとどうなるか
糖尿病は「血管の病気」と考えられていて、その症状は全身に及びます(※6)。
血管の内側は、血液が固まるのを防ぐ物質で覆われており、さらに血管の太さを調整する機能があって、それによって血液の固まりやすさや血管の広がり方を調整していることがわかっています。しかし、高血糖状態が続くと、これらの血管機能が低下してしまうこともわかっていて、血管を詰まりやすくしてしまうのです。
これが小さい血管で起こると、視力低下や腎臓の浄化能力低下、末梢神経の障害などを引き起こし、大きい血管で起こると動脈硬化を引き起こします(※1)。しかし、血管機能低下や動脈硬化の増悪に自覚症状はないため、糖尿病が重篤な合併症を引き起こすにも関わらず、患者の危機意識が低いことが糖尿病治療を難しくする要因の一つとなっています。
■糖尿病にならない/悪化させないための大原則
ヒトは、食後には血糖値が上がりますが、糖尿病予防・管理においてはこの血糖値の上昇を“緩やかにする”ことが重要です。
ここで重要な指標となるのがGI値です。血糖値上昇のスピードを指標にしたものであり、GI値が高ければ高いほど血糖があがりやすく、低ければ血糖の上昇は緩やかとなります(※7)。例えば、白米よりは玄米、うどんよりはそばの方がGI値は低くなります。これは、食物繊維やタンパク質などが多く含まれる食品と考えればわかりやすいでしょう。
■運動はインスリン抵抗性を改善させる
一方、人は運動をすることで、筋肉内に存在する糖分取り込み装置(GLUT)の働きが活発になり、血中から筋肉へと糖分を取り込み、血糖値を下げることになります。それだけでなく、筋肉における脂肪燃焼も促進されます。
それゆえ、運動による筋肉の役割は、血糖値を下げるだけでなく、中性脂肪が減少して、筋肉のインスリン抵抗性を改善させるのです。さらに、肝臓での中性脂肪蓄積を抑制し、肥満をも改善することで全身レベルでのインスリン抵抗性改善効果も期待できます(※8)。
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以上、今回は糖尿病について解説しました。ほとんどの糖尿病は生活習慣が元に起こるため、予防も生活習慣の改善が基本となります。しかし、糖尿病は無症状で経過が長い病気であるため、それが怖い病気なのです。予防しなくてはいけない、と気づきアクションを起こすまでに時間がかかってしまいがちです。
食事など、1日3度、毎日のことなので、急激に生活を切りかえるというのは難しいものです。1日の中で、白米を玄米に置き換えてみたり、野菜を一緒に摂ることでバランスをとるなど、小さい気配りを「始める」そして「続ける」ことが何より重要です。
文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。