文/鈴木拓也

時おり新聞紙上をにぎわせる、医療事故の報道。記事になるということは、めったに起きないものと考えがちだが、実際は想像した以上の頻度で起きている。

日本医療機能評価機構が定期的に出している「医療事故情報収集等事業報告書」の第49回報告書(2017年)を見ると、大学病院や国立病院で起きた医療事故の年間報告件数は年々増え、報告義務のある医療機関だけでみると、2005年には1100件程度だったのが、2015~2016年にかけて3000件を超えてきている。医療機関数でならせば、1施設につき毎月1回の医療事故が起きている計算になり、報道されるのは氷山の一角であることがわかる。

医療事故情報の報告件数と医療機関数(「医療事故情報収集等事業第49回報告書」より)

中には、腎臓がん患者のCTフィルムを裏表に見たせいで、左右の腎臓を取り違えて摘出し、患者が死亡する悲惨な例もあるが、「決して珍しくはなく、驚かれるかもしれませんが、『よくある』ケースと言えます」と言うのは、弁護士にして医学博士でもある石黒麻利子さん。

石原さんの著書『医療事故に「遭わない」「負けない」「諦めない」』(扶桑社)は、医療関連の事故・過誤の現状とその対策について書かれた新書だ。本書のなかで石原さんは、高齢患者の場合、「亡くなっても仕方がない」という暗黙の了解にもと放置するケースもあるなど、医療界の赤裸々な事実も記している。

そして、石原さんが提示するのは、患者側の自衛策。過去の事例では、患者が注意することで防げた医療事故も多い。身を守るための4つの心構えは「医師任せにしない」、「病気を知る」、「我慢しない」、「コミュニケーション力を磨く」だという。

例えば、「我慢しない」だと、以下のように指南されている。

病院に行くと緊張してしまうのか、体調が本当はひどく悪いのに元気そうに振る舞ってしまったり、医師に「大丈夫です」「よくなってきました」などと心にもないことを言ってしまったりする人も少なくありません。これでは自分で自分の身を危険にさらすようなものです。医師に病気を見落とされないためには、とにかく我慢しないことが大切です。
(本書67pより引用)

さらには、「いい病院にかかることが大切」とも。それには、自分の病気の「治療実績のある病院・医師」を事前に調べ、「看護師の態度は大丈夫か」をチェックするなど、ある程度の手間をかけたリサーチが必要だという。

実績や医療設備については、病院の公式サイトを見ればかなり分かるが、看護師の態度や担当医師が「危ない」かどうかの見極めは、初診・再診時に注意深く確認して判断することになる。石原さんによれば、「目を合わせようとしない医師」「『大丈夫ですよ』を連発する医師」は、「危ない医師」の可能性大だという。

そして、「大病院・大学病院がいいとは限らない」ともアドバイスする。石原さんは、その理由として以下のように述べている。

大学病院は教育を目的としているため、経験に乏しい医師が手術で失敗するなど医療事故数は比較的多いと言えます。(中略)
もうひとつ、大病院に特有の問題として、その分野の第一人者と認められるために症例数を増やして実績を作りたい医師が、患者に「簡単な手術」と説明して危険性の高い手術や新しい治療法を実施し、事故を起こしてしまうケースがあります。
(本書74pより引用)

本書の中盤以降は、医療紛争についての実践的な事柄に割かれており、万が一自分が医療紛争の当事者になったときに、知っておきたい基礎知識が盛り込まれている。

「予防に勝る治療なし」と言うが、不運にも病気にかかった場合、医療事故に巻き込まれないための予防策に留意し、もしもの場合の備えもしておかなければならないことが、本書を読むとよく実感される。専門的な情報も多いが、一読の価値ある1冊である。

【今日の健康?に良い1冊】
『医療事故に「遭わない」「負けない」「諦めない」』
http://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594078935
(石黒麻利子著、本体820円+税、扶桑社)

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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