取材・文/末原美裕
京都で長年活躍している目の肥えた方々が足繁く通うお店は、間違いなく感動と出会えるところ。本連載では目利きの京都人の方が太鼓判を押すお店を紹介していきます。
今回京都人のお墨付きの場所を教えてくれるのは、能楽・観世流シテ方の能役者、味方 團(みかた まどか)さん。味方さんは4歳の時に初舞台を踏んで以来、父、味方健氏及び故十三世林喜右衛門氏に師事し、46年間能役者としてご活躍されています。
能舞台はもちろんのこと、神社仏閣での公演や近年では歌舞伎役者の市川海老蔵氏プロデュースの伝統芸能コラボレーション公演「源氏物語」に参加されたり、2018年にはフランスのパリ庁舎で行われたコシノジュンコ氏のファッションショーに風神雷神のうち、風神役で出演されるなど、今までの能役者の枠にとらわれない様々な演能スタイルに挑戦されています。
「能」の魅力について、「能は元々神様への奉納の舞でした。600年以上続く舞台芸能としてユネスコ無形文化遺産にも選ばれています。日本で生まれた芸能なので、ご覧いただければ、日本独自のリズム感から心地よい時間を過ごしてもらえると思いますよ」とお話してくださいました。観劇のためのドレスコードもないそうなので、肩肘張らず、気軽に舞台へと足を運びたいですね。
一流の方たちも思わず相好を崩す京菓子
大黒屋鎌餅本舗の“でっち羊羹”
「子どもの頃から大人になった今も、来客があるときには必ず、大黒屋鎌餅本舗(だいこくやかまもちほんぽ)のでっち羊羹をご用意しています。小さい時は兄とともに余った切れ端を親からもらい、喜んでいた思い出もありますね」と味方さんがおすすめしてくれたのは、寺町通から一本入ったところにある御菓子司「大黒屋鎌餅本舗」のでっち羊羹。
1897年に創業した、和菓子の老舗です。店名にもなっている有名な「鎌餅」(216円・税込)は、元々鞍馬口の茶店で供されていたものでしたが、それを復活させたのが初代になります。稲を刈る鎌の形をかたどった細長い鎌餅は豊作への願いが込められた縁起のいい姿だと言われています。
「でっち羊羹は、お店では二番手の和菓子かもしれませんが、私の中では一番手であり、これに勝る和菓子は他にないと思っています。ご進物として名だたる一流の方だったり、全国津々浦々の色々な方にお持ちしましたが、“さすが京都の和菓子ですね”と言われ、いつでもどこでも喜ばれています。自信を持ってお渡しできる手土産ですね」と味方さん。
でっち羊羹は十勝産の小豆でこしらえた自家製のこし餡に波照間島の黒砂糖を練り合わせ、竹皮で手包みしたのちにじっくり蒸しあげて作られています。「餡の風味を残しながらも、甘すぎることのないようにと心がけています」と、ご主人の山田さん。餡は長い時間をかけて手間暇をかけながら、すべてご主人一人の手で作られています。
「大げさではなく、私自身が一番好きな和菓子であり、仕事で全国を回る中で色々なでっち羊羹を食してみましたが、私の口にはこれに勝るものはないですね」と言い切る味方さん。
上品な餡の味わいが広がるでっち羊羹は甘いものが苦手な人にも人気です。手土産として持ち帰れば、竹の香りとともに至福のひとときが過ごせることでしょう。
■味方 團(みかた まどか)さん
能役者。能楽・観世流シテ方。1969年、京都市生まれ。能楽師・味方健氏の次男。4歳で「鞍馬天狗・花見」で初舞台を踏み、90年十三世林喜右衛門に内弟子入門し、95年独立。名古屋の若手能楽師と共に「能楽 鏡座」結成。2004年名古屋市民芸術祭賞を受賞。能楽堂での演能を勤めながら寺院の座敷・ホテルのバーやディナーショーなど場所に捉われず意欲的に色々な演能スタイルに挑戦している。
ブログ:http://mikatanomadoka.cocolog-nifty.com
■大黒屋鎌餅本舗(だいこくやかまもちほんぽ)
営業時間:8時30分〜18時30分
定休日:第2・4水曜日
住所:京都市上京区寺町通今出川上ル4丁目西入ル阿弥陀寺前町25
TEL:075-231-1495
アクセス:地下鉄烏丸線「今出川」駅より徒歩約10分
取材・文/末原美裕
小学館で11年間雑誌の編集部門において実務経験を経たのちに独立。フリーの編集者・ライター・Webディレクターに。2014年、文化と自然豊かな京都に移住。