取材・文/末原美裕

京都で長年活躍している目の肥えた方々が足繁く通うお店は、間違いなく感動と出会えるところ。本連載では目利きの京都人の方が太鼓判を押すお店を紹介していきます。

京都人のお墨付き

2019年7月6日「望月」味方團 phot by Mariko Miura

 今回京都人のお墨付きの場所を教えてくれるのは、能楽・観世流シテ方の能役者、味方 團(みかた まどか)さん。味方さんは4歳の時に初舞台を踏んで以来、父、味方健氏及び故十三世林喜右衛門氏に師事し、46年間能役者としてご活躍されています。

今回は能の楽しみ方を教えてくださいました。
「<能は難しい>、<どう観たらいいかわからない>とおっしゃられる方は多いですが、まずは先入観を捨てて、そのままをご覧ください。能役者は極限まで無駄が削ぎ落とされた静かな動きで演じているので、観る人の想像力によって無限の広がりが感じられると思いますよ。また、昔の言葉を使いますが、よく聞けばすごく綺麗な響きをしていますし、日本語ですので、心を落ち着けて耳を澄ませば何を言っているのか必ずわかります」と味方さん。

京都人のお墨付き

「“衣装が美しい”、“能面が面白い”という興味が入り口でもいいと思うんです。」と味方さんは語る。

 「舞台上からも寝ているお客様に気づくことがあるのですが、そんな時は“成功、成功”と思うんです。楽器の音色と台詞のリズムが心地よかったから、眠りにつかれたんだと役者たちは思っていますよ」と味方さん。このようなエピソードを聞くと、敷居が高く感じられていた能が身近に感じられますね。

今回は、舞台に上がる役者さんたちが修行時代から慣れ親しんでいる味をご紹介いただきました。

(能役者・味方團さんおすすめの京都甘味
「大黒屋鎌餅本舗のでっち羊羹」はこちら

役者たちを支える味、
「お福」のお福うどん

京都人のお墨付き

「4歳のときに初舞台を踏んで以来、なじみの店です。舞台のある日や稽古の日、例会のある日には必ず仕出しを頼むので京都の役者たちが慣れ親しんでいる味なんですよ」と味方さんがおすすめしてくれたのは、平安神宮の大きな鳥居から歩いて3分ほど南に下ったところにある「お福」のお福うどん。

京都人のお墨付き

お店の前にはおたふくの目立つ看板が目印です。

 今のご主人である酒井嚴悟(げんご)さんのお父様の代から始められたお店で、創業70年以上になるお店です。能や狂言の稽古が行われている、観世会館への仕出しは50年以上続けられています。

それでは早速、「お福」のお福うどんをいただきましょう。

京都人のお墨付き

京都らしく優しい出汁のきいた汁に弾力のある麺の上に香ばしく焼かれた丸もちがのせられています。
昆布と鯖を使った出汁は昔ながらの方法で70年以上大きなやり方は変えずに丁寧にとられています。薄味であるにも関わらず、麺にしっかりと味が染みています。また、丸餅は東山にある和菓子店「老松堂」(おいまつどう)から仕入れられているそうで、やわらかなお餅が出汁に絡むと、ほっとする味がしますよ。

京都人のお墨付き

「関西の人はお餅が好きだし入れているんですよ」とご主人の酒井さん。お福うどんにのっているお餅は注文を受けてから、網を使って焼いています。

 「観世会館から注文があった場合は、一回の配達で10個の丼しか運べないので、5、6往復することになります。お餅は冷めたら固くなってしまうので、時間を計算して持っていっていますね」と酒井さん。平安神宮で1月と6月に毎年開催されている、京都薪能がある日には2日間で150杯分の丼を運ぶこともあるのだとか。

「他にもメニューはあるのですが、役者は皆<お福うどん>一択ですね。仕出しだけではなく、<お福うどん>をどうしても食べたくなって、寄らせてもらうこともあるのですが、店内で役者仲間に会うこともよくあるんですよ」と味方さん。

京都人のお墨付き

こじんまりとした店内なので、知り合いがいたらすぐにわかる。

京都の役者たちが幼少期から親しみ、愛す「お福うどん」、一度ご賞味あれ。

 

■味方 團(みかた まどか)さん
能役者。能楽・観世流シテ方。1969年、京都市生まれ。能楽師・味方健氏の次男。4歳で「鞍馬天狗・花見」で初舞台を踏み、90年十三世林喜右衛門に内弟子入門し、95年独立。名古屋の若手能楽師と共に「能楽 鏡座」結成。2004年名古屋市民芸術祭賞を受賞。能楽堂での演能を勤めながら寺院の座敷・ホテルのバーやディナーショーなど場所に捉われず意欲的に色々な演能スタイルに挑戦している。
ブログ:http://mikatanomadoka.cocolog-nifty.com

■お福
営業時間:昼 11時45分〜15時(Lo14時45分)< 火曜、水曜日休み>
夜 21時〜25時(Lo 0時45分)<月、火、水曜日休み>
住所:京都市東山区三条通り神宮道夷町156
TEL:075-771-1461
アクセス:地下鉄東西線「東山」駅より徒歩約7分

取材・文/末原美裕
小学館で11年間雑誌の編集部門において実務経験を経たのちに独立。フリーの編集者・ライター・Webディレクターに。2014年、文化と自然豊かな京都に移住。

 

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