■4軒目:やす竹(福井県福井市)
――太打ちと細打ちで弾力、歯切れの良さが変わる

福井在来を使った、『やす竹』の細打ちの「せいろ」。福井県は在来種を栽培する地域が県内全域に広がり、良質な蕎麦の実を使うことができる恵まれた地域だ。730円。

福井市で、昔からこの地で栽培されている品種・福井在来で打った蕎麦で評判なのが『やす竹』だ。創業は昭和54年。一本棒と三本棒による打ち方を自在に使い分ける、手打ち蕎麦の名手である2代目当主・北谷敏一さん(49歳)の店だ。

蕎麦は打ち方により味が変わる。北谷さんはそのことを熟知し、品書きによって蕎麦打ちの方法を変えている。それは、北谷さんがもり蕎麦の「歯ごたえ」を重視するからだ。福井県の郷土蕎麦である「越前おろし蕎麦」は、太打ちの
蕎麦に大根おろしや鰹節、刻み葱をかけ、噛んで「歯ごたえ」を味わう蕎麦だ。この蕎麦を美味しくするには、麺に心地よい「歯ごたえ」を付与する技術が欠かせない。

「細打ちで固めの蕎麦を打つときは、3本の麺棒を使う三本棒の打ち方をします。太い蕎麦にして、麺にもちもち感を与えたいときには一本棒で打ちます」(北谷さん)

『やす竹』では、ほとんどの品書きで蕎麦の太さを選ぶことができる。客は好みで、細打ちか太打ちを指定する。

一本棒は、古くから行なわれてきた伝統的な蕎麦打ちの技だ。1本の麺棒を駆使し、蕎麦の旨さをいかに引き出すかを考え、技が磨き抜かれてきた。

福井県伝統の蕎麦の打ち方は、一本棒・丸延(まるの)し。1本の太い麺棒に生地を巻き付け、転がしたり、打ちつけたりして丸く延す。一本棒で打つ店は少なくなったという。

一方、三本棒の打ち方は、狭い蕎麦打ち場で、効率よく大量の蕎麦を打つために考案された。比較的新しい技術と考えられている。

3本の麺棒で、生地を四角く延ばす三本棒の打ち方は、蕎麦粉の無駄が少なく、効率がよいため全国の手打ち蕎麦店に普及した。『やす竹』でも、三本棒で打つメニューは多い。

『やす竹』で細打ち、太打ち、2種類の「もりそば」を食べ比べてみた。

まずは、細打ちの「もりそば」から。口の中で跳ねるようなコシと弾力を感じる蕎麦だ。香りも生かされ、材料の良さと職人の腕の確かさが反映されている。

次に太打ちを味わう。噛みしめると、餅にも似た弾力で歯を押し返し、次の瞬間に、さっくりと小気味よく切れる。そして蕎麦の香りと甘みが口いっぱいに広がる。

食べ比べてみると、麺の太さによって「歯ごたえ」は異なり、蕎麦の印象もだいぶ変わることがわかる。

噛むほどに旨さが増す『やす竹』の太打ちの蕎麦。その断面からは、甘さ、香り、穀物の味わいなど、福井在来の魅力が溢あふれ出す。

それぞれに甲乙つけがたい魅力があるが「歯ごたえ」でいうと、太打ちのほうが噛み心地を楽しめるようだ。もちろん、どちらを選ぶかはお好みでどうぞ。

名物の「おろし蕎麦」は鰹節や刻み葱、大根おろしをかけて食す。つゆの他に大根おろしの汁、とろろ汁の3類類の汁を組み合わせた「そばざんまい天ぷら付き」1660円。

【やす竹】
福井市文京7-9-35
電話:0776・26・7281
営業時間:11時~16時(最終注文15時30分)、17時~21時30分(最終注文21時)
定休日:水曜、第1・第3火曜の夜の部 40席。
アクセス:JR福井駅より車で約15分。えちぜん鉄道福大前西福井駅より徒歩約20分。

天ぷらなどの料理も自慢。

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