落語家・柳家小満ん師匠が指南する「もり蕎麦をいただく作法」

蕎麦職人の技と工夫の結晶であり、蕎麦店の看板とも言える「もり蕎麦」は、どのように食せば、正しい食べ方といえるのだろうか。

むろん、好みの食し方をすればよいのだが、なるべくなら理に適い、そして粋に食してみたい。そこで、食通で知られる落語家の柳家小満ん師匠に、行きつけの『上野藪そば』(東京都)でもり蕎麦の食し方を指南いただいた。

※この記事は『サライ』本誌2016年11月号の特集「蕎麦は“もり” に窮まる」より転載しました。肩書き等の情報は取材時のものです。(取材・文・撮影/片山虎之介)

柳家小満ん師匠(落語家・74歳)昭和17年、神奈川県生まれ。昭和36年、八代目桂文楽に入門。文楽没後、五代目柳家小さん門下に移籍。昭和50年、真打昇進。俳句を嗜み、落語界きっての食通でもある。

「正しい食べ方よりも、握りたての寿司や揚げたての天ぷらと同じで、目の前にやってきたらすぐ食べる。これに尽きます」

小満ん師の師匠で人間国宝の五代目柳家小さんは蕎麦を食べるのがともかく速かった。

「誰よりも速く平らげ、もたもた食べている弟子を“遅せえな”と嬉しそうに眺めてました」

そもそも、もり蕎麦はのびやすい。お喋りに夢中になっていては、折角の蕎麦も台無しだ。寄席に出演するついでに楽屋仲間とよく蕎麦を手繰るという小満ん師匠はこう指南する。

「連れの蕎麦が先に運ばれてきたら“のびないうちに、お先にどうぞ”とひと声かけてあげれば、気兼ねなく美味しく食べられます。こっちが先なら“のびないうちに、お先にいただきます”です」

もり蕎麦が目の前に届いたら、まずは徳利に入ったつゆを半分ほど猪口へ入れ、残りは蕎麦湯に取っておきたい。つゆを切らしてしまっては、蕎麦湯も味けない。

つゆの辛さにもよるが、蕎麦徳利から蕎麦猪口へ半分ほどつゆを入れる。残りは蕎麦湯と合わせるために残しておきたい。

次に、つゆへつけずに蕎麦を味わう。蕎麦職人が丹精込めて打った蕎麦だ。香りを楽しみ、舌触りを感じ、歯ごたえと喉越しを確かめたい。小満ん師匠は蕎麦を手に受けてから口の中へ。

「掌の感触がいいんです。箸でつまむより、旨さを感じます」

蕎麦そのものの香りや舌触り、歯ごたえを楽しむ。小満ん師匠は、掌で蕎麦を受けて食すと味がよくわかるという。

そしてつゆをなめ、濃さを確かめる。辛いと思えば蕎麦を3分の1ほど浸け、甘いと思えば、どっぷり浸ければよい。東京の蕎麦店のつゆは濃いめに作ってあることが多い。

舌先で少しなめてみて、つゆの濃さと味を確かめる。それにより、蕎麦をどのくらいつゆへ浸けるのかがわかる。

蕎麦の先をつゆへ浸ける。蕎麦の表面が汁で覆われると、香りがわかりにくくなる。つゆの味と蕎麦の香りを楽しみたい。

薬味の使い方だが、山葵(わさび)は蕎麦の上に少しのせて食すとよい。

「つゆに溶かすよりも、このほうが山葵と蕎麦の香りが楽しめます」

また、少しの山葵を口に含めば、口直しにもなるという。

山葵は蕎麦に少量つけると、清々しい香りが蕎麦の味を引き立てる。つゆに溶かすと汁の味が変わってしまう。口直しにそのまま食してもよい。

葱はつゆに入れてもよいが、蕎麦湯に入れて最後に食すのが小満ん流。これでさっぱりと仕上がるという。

刻み葱は蕎麦にのせてもよいが、最後に蕎麦湯へ入れると葱の香りが風味よく楽しめる。水にさらしてから供する 店もある。

そして、「長っ尻は禁物です。蕎麦は速く食べて、早く帰る。こういう客は江戸の昔から『粋』な客だといわれたもんです」(小満ん師匠)

古典落語の演目『そば清』で、もり蕎麦を手繰る仕種を演じる小満ん師匠。大喰いの男が蕎麦を平らげてゆく噺だが「最初の2~3枚を旨そうにすするのがコツです。あとはひたすら食べる」(笑)

『上野藪そば』の「せいろう」714円。明治25年(1892)に藪蕎麦総本家の『連雀町藪蕎麦』(現『かんだやぶそば』)から暖簾分けされた。銅の急須には蕎麦湯が入っている。

買い物客で賑わう上野アメ横の小路を入った角地にある「上野藪そば」

【上野藪そば】
■住所:東京都台東区上野6-9-16 
■電話:03・3831・4728 
■営業時間:11時30分~21時 (最終注文20時30分) 
■定休日:水曜(祝日は営業、翌日休み)、67席。


JR上野駅より徒歩約5分。JR御徒町駅より徒歩約8分。地下鉄上野御徒町駅より徒歩約5分。

※この記事は『サライ』本誌2016年11月号の特集「蕎麦は“もり” に窮まる」より転載しました。肩書き等の情報は取材時のものです。(文・撮影/片山虎之介)

文・撮影/片山虎之介
世界初の蕎麦専門のWebマガジン『蕎麦Web』(http://sobaweb.com/)編集長。蕎麦好きのカメラマンであり、ライター。伝統食文化研究家。著書に『真打ち登場! 霧下蕎麦』『正統の蕎麦屋』『不老長寿の ダッタン蕎麦』(小学館)、『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)、『蕎麦屋の常識・非常識』(朝日新聞出版)などがある。茨城県の茨木町で『そば処 楓の森(かえでのもり)』を運営している。お店のHPは http://kaede-no-mori.com

sobabanner

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