■5軒目:戸隠そば 山口屋(長野県長野市)
――喉元をなめらかに滑る蕎麦の秘密は、つなぎの小麦粉に手打ちの技と旨い水
『戸隠そば 山口屋』の創業は、昭和25年。江戸時代より旨い蕎麦の産地として知られる標高1200mほどの長野市戸隠地区にある。
2代目当主、山口輝文さん(60歳)は『戸隠そば 山口屋』の蕎麦について次のように語る。
「私どもの店に限らないのですが、戸隠蕎麦は“喉越し”の良さが、美味しさの重要な基準になります。信州では、生粉打ち(蕎麦粉100%)の蕎麦を郷土蕎麦とする地域が多いのですが、ここ戸隠では、つなぎに小麦粉を入れて打つのが昔からの伝統です」
戸隠の伝統的な蕎麦の打ち方は、一本棒・丸延(の)し。1本の太い麺棒で、蕎麦打ちのすべての工程をこなす高度な技術だ。今では見かけることが少なくなった、太い麺棒に生地を巻き付けて延す一本棒の打ち方がこの地域には残る。
一本棒で打った蕎麦は、もちもち感がありながらもしなやかで、つながりのよい麺になる。これを茹でて水で締めると、喉元をなめらかに滑り落ちる蕎麦となる。
一本棒で打った蕎麦を「ぼっち盛り」と呼ばれる、ひと口サイズの束にして笊(ざる)に盛り付けるのも、戸隠蕎麦の特徴だ。蕎麦を茹でて洗うと、水の中から蕎麦を手でつまみ上げ、指先にくるりと巻きつけるようにして「ぼっち盛り」の形を作って盛り付ける。
「戸隠では、神様への供物として蕎麦の食文化が発展してきましたから、形の整った見栄えの良さも大切だったのだと思います。ぼっち盛りは、水から直接あげますので、水を切りません。蕎麦に水が絡んでいますから、喉越しもよく
なります。戸隠は水のよいところなので、水が絡んでいても、蕎麦の邪魔をしないのです」(山口さん)
戸隠の水は軟水で、水温は一年を通して10度前後。真夏でも、蕎麦を洗ったあとに、氷で締める必要がない。
小麦粉のつなぎを使い、一本棒で打った喉越しのよい蕎麦を、水を切らずにぼっち盛りにして喉越しよく味わう。
戸隠の蕎麦が昔から名高き理由を是非、訪れて美味しく確かめていただきたい。
【戸隠そば 山口屋】
長野市戸隠3423
電話:026・254・2351
営業時間:9時30分~17時30分
定休日:不定 250席。
アクセス:JR長野駅からアルピコ交通バスで約1時間、中社大門下車徒歩約2分。車で約40分。
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