■3軒目:手打ち 梅蕎麦(山形県山形市)
――表面を覆う凹凸の粒子が、素麵やうどんと異なる旨さを生み出す
『手打梅蕎麦』の創業は江戸時代に遡り、山形県でも屈指の老舗である。かつては街道沿いに大きな店を構えていたが、現在は4代目当主の山川純司さん(62歳)が、納得のゆく蕎麦を供する小体な店として人気を集めている。
山川さんは、もり蕎麦には「舌触り」が大事だと言う。
「私が打つ蕎麦は、すべて生粉(きこ)打ち(蕎麦粉100%)の細切りです。この作り方が蕎麦を美味しく、『舌触り』よく楽しめると思うからです」
蕎麦を細く切ると食感や味の印象が弱まってしまいそうに思えるが、山川さんは細く切ることで、蕎麦の魅力を強く訴えたいと考えている。
運ばれてきた「もりそば」は、糸のように細く、そして短い。茹で時間はわずか10秒。ごく短時間で茹で上がる細切りの蕎麦は、のびるのも、乾くのも早い。箸をとる間も惜しんで食したい。
山川さんが打つ極細の蕎麦は、舌に当たると蕎麦粉の粒子を心地よく感じ、口中を清々しい蕎麦の香りが涼風のように吹き抜ける。繊細な見た目からは想像もできない、強い印象を与える蕎麦だ。
蕎麦の食感が素麺やうどんと大きく異なる点は、表面を覆う凹凸の粒子にある。この舌触りが、蕎麦の旨さを生み出すのだ。
また、山川さんは蕎麦を長くつなげることにこだわらない。
小麦粉などのつなぎを入れない生粉打ちの蕎麦は切れやすいが、切れた面から旨さが染み出し、そのもろい食感も魅力だからだ。
「つなぎを用いて蕎麦を無理につなげようとすると、生粉打ちで得られる折角の持ち味を殺してしまいます」(山川さん)
山川さんは毎日、硬い殻をむいた「抜き」と呼ばれる蕎麦の実を石臼で自家製粉している。それを篩(ふるい)にかけ、経験から導き出した粒の大きさに整える。
その粉は、粗挽きというほど粗くはない。一般的に使われる蕎麦粉に、少し粗めの粉を混ぜたほどの蕎麦粉だが、それを生粉打ちで、ここまでの細切りにするのは至難のワザだ。
山川さんの奥義が、ここにある。
【手打ち 梅蕎麦】
山形市東原町3-5-10
電話:023・622・8377
営業時間:11時30分~14時30分
定休日:火曜 24席
アクセス:JR山形駅より車で約10分、徒歩約30分。山形自動車道山形蔵王ICから車で約10分。
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