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名店といわれる老舗蕎麦店の「ざるそば」はなぜ量が少ないのか?【片山虎之介の「蕎麦屋の歩き方」第37回】

トリミング/並木藪蕎麦_DSC7138

浅草『並木藪蕎麦』のざるそば。

昔から、蕎麦は「小腹が空いたときに、さっと手繰るもの」といわれる。

しかし、小腹が空くのはたいてい午後3時過ぎ。中休みをとらず通しで営業している店が見当たらないときは、蕎麦好きは困り果てることになる。

東京・浅草『並木薮蕎麦』の初代、堀田勝三さんは、「江戸っ子は、すしと蕎麦で、腹をはらしちゃいけないよ」が口癖だったらしい。そんな堀田さんが、自身の著書『うどんのぬき湯』に、次のように書いている。

《多くの蕎麦屋は、午後2時から4時までの2時間、特に夏場は午睡をするが、こういうつらい時間帯こそ、店主が陣頭に立って仕事をすべきだ。自分は夏の午後でも午睡はしないと決めている》

これが堀田さんの持論だった。

初代の堀田勝三さんからの伝統なのか、幸いなことに同店には中休みがない。午前11時から、夜の7時半まで、いつでも蕎麦を食べることができる。だから、蕎麦好きは浅草にいて小腹が空いたら『並木藪蕎麦』に駆け込めばいいという安心感がある。通しで営業していることが、蕎麦好きにとって、どれほどありがたいことか。

堀田勝三さんが大正3年に創業した『並木藪蕎麦』の「ざるそば」は、一枚食べてお腹がふくれる量ではない。「蕎麦で腹をはらす」ためには、2~3度は、おかわりする必要がある。「藪蕎麦」という暖簾は、かつて大衆食であった蕎麦を、高級な趣味食として売り出して成功した店である。『並木藪蕎麦』の蕎麦もやはり、いかにも江戸っ子が好みそうな蕎麦だといえる。おいしいことに加えて、量が少ないことも、粋であるためには重要なのである。


■たとえ空腹でもガツガツしない


先日、どうしても蕎麦が食べたくなって、ある店に向かったが、ちょうど中休みの時間だった。「仕度中」と書かれた木札の下がった扉の前に立ち、ぐう、と嘆く小腹の虫をなだめる。虫はすっかり蕎麦を食べる気になっていて、もはやラーメンやうどんでは納得してくれそうもない。なにがなんでも醤油ベースの辛汁で、冷たい蕎麦を手繰るのだと訴えてくる。

耐えて待つこと2時間。午後5時になって、店の入り口にようやく暖簾がかけられる。小腹の虫も泣き疲れた空きっ腹をかかえながら、何事もなかったかのような顔で暖簾をくぐる。

まずは酒を一本と、もり蕎麦を一枚注文。いくら空腹でも、蕎麦好きたるもの、見苦しくガツガツしてはいけない。きれいに最後の一本まで箸でつまんで、もりを食べ終わったら、さりげなく品書きを手にとり、種物を追加注文する。今の時期ならさしずめ、蕎麦と浅草海苔というシンプルな組み合わせの「花まき」といったところか。

盃を傾けつつ蕎麦を待ち、運ばれてきた「花まき」の蓋をとる。立ち上る海苔の香りに目を細め、甘汁とともに蕎麦をすする。至福のひとときである。温かい蕎麦がのどもとを過ぎると、午後3時の絶望感は嘘のように消え去り、心と体に充足感が広がっていく。

堀田勝三さんは「江戸っ子は、すしと蕎麦で、腹をはらしちゃいけないよ」と言ったが、僕は信州生まれで江戸っ子じゃないんですと、心の中で言い訳をしながら表に出る。夜風の中に、店に入るときにはわからなかった、甘い春の香りが漂っているような気がした。

文・写真/片山虎之介
世界初の蕎麦専門のWebマガジン『蕎麦Web』編集長。蕎麦好きのカメラマンであり、ライター。著書に『真打ち登場! 霧下蕎麦』『正統の蕎麦屋』『不老長寿の ダッタン蕎麦』(小学館)『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)などがある。

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