談/辰巳芳子(料理家)
日本の伝統文化の底にある日本人の神経の細やかさは、貝によって養われてきたと私は思っています。なにより縄文時代の貝塚は、貝がどんなにか昔から日本人を支えてきたかを示すものでしょう。
神経の細かな人は、木の芽どきに具合が悪くなりがちだけれど、その時期に浅利が出てきます。日本では、冬の間はしじみ、春になればあさり。春のあさりは頭の調子を整え、冬は寒しじみの味噌汁が肝を助けます。
しじみを使う深川丼は、もともと俥引きの疲れをとって養うものでした。深川丼は顔を見てからサッと作れて、深川あたりでお客を待っていた俥引きの助けになったのでしょう。
先日、鎌倉のわが家にさる大学の先生がお見えになり、旬のあさりの成分が人の生命の助けになるという研究をしていて、効用はずいぶんわかってきたが、効果的な食べ方がわからない、とおっしゃる。それであさりの調理法をお話ししました。あさりを西洋風に、いいオリーブオイルで炒めて、あさつきを散らすという食べ方です。
これは理にかなっています。貝が持っていないのは脂肪だから、にんにくとともにオリーブオイルで炒めて油分を補うといいからです。スペインでは、ムール貝をオリーブオイルで炒めた際の美味しいスープに、パンを浸して食べています。
オリーブオイルを選ぶなら、和風にも使えるくせのないものがいいですね。私は、きんぴらごぼうもオリーブオイルで作ります。千切りにしたごぼうを水にさらして、水を切って炒めて、酒とみりんを加えて醤油で味を調える。サラダオイルじゃまったくダメ。ごま油はゴマの風味がじゃまになる。
男の人は、にんにくの良いものをオリーブオイルで炒めたペーストを、瓶に詰めて持っているといいわね。フランスパンにちょっとバターを塗って、このにんにくを炒めたものを塗って、オリーブかケイパーを添えても悪くない。ちょっとした手間で、洒落て食べて飲める。
さらに、このにんにくペーストで牡蠣を炒めて瓶に詰めて、オリーブオイルを注げば、牡蠣のオイル漬けができます。旬に牡蠣をまとめて産地から取り寄せ、牡蠣フライにした残りをオイル漬けにする。このオイル漬けの牡蠣を毎朝3粒食べていれば、卵よりも滋養に富み、身体を養ってくれます。
男性が自ら酒肴を作り置き、手軽で豊かに楽しむのは、賢い食べ方と思います。
談/辰巳芳子(たつみ・よしこ)
料理家。1924年生まれ。聖心女子学院卒業。家庭料理、家事差配の名手として今も語り継がれる母、辰巳浜子の傍らにあって料理とその姿勢を我がものとし、独自にフランス、イタリア、スペイン料理も学び、広い視野と深い洞察に基づいて、新聞、雑誌、テレビなどで日本 の食に提言しつづけている。 近年は、安全で良質の食材を次の世代に用意せねばとの思いから「大豆100粒運動」会長、「良 い食材を伝える会」会長、「確かな味を造る会」の最高顧問を務める。
【辰巳芳子さん推薦】
エキストラヴァージンオリーブオイルBIO(750ml)
無農薬の濾過エキストラヴァージンオリーブオイル。BIO(ビオ)は最初の一滴から最後の一滴まで無農薬オイルの証です(「ビオ認証マーク」つき)。マイルドな味と香りなので洋風料理だけでなく、和風料理にも大変良く合います。定価3456円(税208円)※生産地:イタリア(輸入元:イタリア商事)
EXVオリーブオイル・ノストラーレ(500ml)
エクストラヴェルジネーは最高の収穫期に手摘みで実を選別して採り、化学的処理は一切されません。酸化物混入率が1%未満のオイルが初めてエクストラバージンと名乗ることができますが、さらにVerde(ヴェルデ)、Oro(オーロ)、Nostrale(ノストラーレ)の3クラスの品質特徴に分けられます。ノストラーレは自然精製度の高さから料理の他化粧品や医薬品として用いられる程の純正品で、オリーブオイルの原点といえます。「日本の食生活に溶け込む和食にも使えるオリーブオイルです。けんちん汁の具を炒め得る数少ないオリーブオイルのひとつです」(辰巳芳子さん)定価2430円(税180円) ※生産地:イタリア
【辰巳芳子さん推薦】オリーブオイルのご購入は下記より。
茂仁香 http://www.tatsumiyoshiko.com
撮影/小林庸浩、構成/尾崎靖(小学館)
【サライ.jpで読める辰巳芳子さんの記事】