文・絵/牧野良幸
木下恵介の『カルメン故郷に帰る』は、日本初のカラー映画である。当時の言い方をすれば“総天然色映画”だ。それも国産フィルムを使ってということで、まさに記念碑的な映画と言える。
カラーということもあるかもしれないが、『カルメン故郷に帰る』は1951年に作られたとは思えないほど明るい映画だ。
実際、画面は明るい。撮影の様子を伝える証言を読むと、フィルムの感度がまだ低かったから、撮影は野外で日差しの強い時間帯が選ばれ、俳優に当てた照明も相当だったとか。
しかしこの映画の明るさは、やっぱりリリィ・カルメン(高峰秀子)という人間の明るさによるものだろう。
ある日浅間山のふもとの村に、家出をして東京に行った女、おきんが帰ってくる。おきんは東京でリリィ・カルメンという名前でストリッパーをしていた。おきんにとっては東京で一旗揚げたつもりの凱旋である。汽車から都会の大胆な服をまとったカルメンが、ストリッパー仲間のマヤ朱美(小林トシ子)を伴って降り立った。
村人たちは東京の人間やストリッパーが珍しい。熱烈歓迎である。ひとり、おきんの父親だけが浮かぬ顔だ。「おきんは子どものころ牛に蹴られた。それ以来、おきんは頭がおかしくなってしまった」と嘆くのだった。
「牛に蹴られて」というところがいかにもコメディらしい。しかしリリィ・カルメンは気が強いけれども、お人好し、単純なところが憎めない。
映画で一番見せどころはミュージカル仕立てに、カルメンが主題歌を歌うシーンだ。青い空、赤いスカーフ、あらわな女の肌。総天然色が映す、高峰秀子の歌いっぷりに当時の映画館では、みなウットリしたことに違いない。
しかし都会気取りのカルメンと朱実は、村の学校の運動会でひと騒動をおこしていまう。
「こんな恥をかきっぱなしで、帰れると思うの!? ゲッ、ペッ」
つばきを吐くと、カルメンはぶち上げた。
「アタイたちのゲージュツがどんなもんだか、見せてやる!」
かくしてリリィ・カルメンとマヤ朱美のストリップ・ショーが村をあげて催されることになった。もはや誰もとめられない。本当は、おきんが一番かわいい父親も覚悟を決めた。
映画の公開から66年後に生きる僕も、二人の踊りには目が離せない。当時の踊りだから、そのアナクロ感が逆に衝撃なのか。それとも世代を超えてやっぱり強烈な踊りなのか。
いずれにしてもステージのカルメンは真剣そのもの。やっぱり芸術家だ。
【今日の面白すぎる日本映画】
『カルメン故郷に帰る』
■製作年:1951年
■製作・配給:大映
■モノクロ/1時間25分
■キャスト/高峰秀子、佐野周二、 笠智衆、 小林トシ子、 井川邦子
■スタッフ/監督・脚本:木下恵介、助監督:松山善三、小林正樹、川頭義郎、二本松嘉瑞 他、音楽:木下忠司、黛敏郎
文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp