文/印南敦史

なんらかのダイエットを試みてはみたものの、「結局はうまくいかなかった」という方は少なくないだろう。そうなると自身の意志の弱さを責めたくもなるかもしれない。

しかし『9割の人が間違っている炭水化物の摂り方』(笠岡誠一 著、アスコム)の著者によれば、意志の弱さのせいではなく、問題は巷でよく見るダイエット・健康法にあるようだ。

「簡単」で、「ラク」で、「すぐできる」という簡単・短期間健康法の裏側には、「挫折のトライアングル」が待っているというのである。

それは、往々にして、炭水化物を悪にし、単純に「主食をオフにしましょう」という傾向にあります。
適切に、これからの人生をかけて健康的なからだづくりをしたいのならば、炭水化物に関する適切な知識を身につけていく必要があります。(本書13ページより)

もうひとつのポイントは、「炭水化物の摂り方」。近年は「糖質制限ブーム」の影響で、炭水化物=悪とでもいうような捉え方が浸透している。とはいえ、そうした認識は、健康という点でも、おいしく楽しく食べていくということにおいても、非常にもったいないと著者はいう。

いいかえれば、毎日の食事を、楽しく、健康的にしていくことこそが大切だということである。

つまり、炭水化物を正しく理解し、「挫折しない、楽しく続けられる健康的な食生活」を実現すること。管理栄養士である著者は本書において、そこに焦点を当てているわけだ。

いうまでもなく、もっとも重要なのは、「正しく理解する」という部分である。

たとえば著者はここで、意外にも思える指摘をしている。炭水化物は冷やすことで、食物繊維(レジスタントスターチ)が簡単に増やせるというのだ。

レジスタントスターチには、人工的に加工されたものを除くと、RS1、RS2、RS3の3種類があります(RSはレジスタントスターチの意味)。
RS1の代表は、玄米です。玄米のように糠や表皮に包まれているでんぷんは、物理的に包み込まれているため消化酵素によって分解されにくく、大腸まで届きます。全粒粉でできたパンもこの仲間です。
RS2は、でんぷんそのものが消化されにくい性質を持っているタイプです。生のジャガイモや、調理用の青いバナナなどがこれに当たります。
RS3は、もともと消化されやすい普通のでんぷんが、加熱調理後に冷めることによって性質が変わり、消化されにくくなったものです。つまり、具体的には、冷ましたご飯、冷製パスタ、ポテトサラダなどにRS3を多く含んでいます。(本書147〜148ページより)

だが、私たちが主食としているご飯、うどん、いまや日本の国民食といわれているラーメンもまた、血糖値を急激に上げる高GI食品。高カロリーで肥満を招きやすい食品であるはずだ。

しかし上述のとおり、炭水化物を冷やすと、でんぷんが低カロリーのレジスタントスターチに変わるのであれば話は別。冷ますなどの工夫をすれば、デメリットをメリットに変えることができるということなのだから。

ご飯を冷まして食べるというと「味気ない」と感じる方もいらっしゃるはずだが、そもそも、おにぎりも弁当も「冷やご飯」。そう考えれば抵抗感もなくなるのではないだろうか。

ご飯の場合は、常温で1時間冷ますだけで、レジスタントスターチに生まれ変わります。炊きたてのご飯のレジスタントスターチを100とすると、常温で1時間冷ますだけで、157程度まで含有量がアップするというから驚きです。(本書149ページより)

白米ですらそうなのだから、炊きたてでもたっぷり食物繊維を摂取できる玄米であれば、その効果はなおさらのこと。冷ませばレジスタントスターチが増えるのだから、試してみる価値は大いにありそうだ。

しかも、一度冷ましたご飯をレンジでチンしても、レジスタントスターチは“健在”だという研究結果もあるのだという。だとすればなおさら、無理せずレジスタントスターチ生活を続けていくことができるのではないだろうか。

さて、最後にもうひとつ興味深いトピックをご紹介しておこう。食事に関するルールのひとつに「1日3食」というものがあるが、著者はこうしたルールに縛られるべきではないとも主張しているのだ。なぜなら、「1日3食」がすべての人にとってよいとは限らないから。

前の日の晩に食べすぎてしまい、翌朝、食欲がなければ無理に食べずにすます。そのくらい気軽に考えていただきたいのです。(本書139ページより)

大切なのは、おいしく、楽しく食べること。したがって、お腹が鳴って空腹を感じたら食べるというくらいでかまわないということだ。

『9割の人が間違っている炭水化物の摂り方』
笠岡誠一 著
1397円
アスコム

文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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