文/印南敦史

年齢を重ねていくに従って、「昔にくらべて頭のキレが悪くなったような気がする」とか、「年をとって記憶力が低下した」などと実感する機会が増えたという方も少なくないかもしれない。

しかし『70歳からのボケない勉強法』(和田秀樹著、アスコム)の著者によれば、それらは誤解に過ぎないようだ。

よく「物覚えが悪くなった」ことを加齢のせいにする人がいますが、記憶力が落ちたのではなく、覚えようという「意欲」が低下しているだけなのではないかと思うのです。(本書「はじめに」より)

多くの場合、50代から60代にかけて男性ホルモンの分泌量が減少しはじめる。代表的な男性ホルモンとして思い出すのは、意欲や気力、攻撃性、好奇心と密接な関係にある「テストステロン」だ。

そう考えても、60代前後から意欲が低下しがちになるのはある意味で当然のことなのだろう。

さらに、そこに前頭葉の老化も加わることになる。前頭葉は感情のコントロール、創造性、怒りや不安の処理をつかさどるが、老化によって萎縮すると、意欲を維持することが難しくなってくるのである。

とはいえ、そうした変化が見られる時期が訪れたからといって、なにもできなくなるわけでは当然ない。それどころか、大病をしたことがなく、深刻な持病もない男性なら、現役を退いたあとも20〜30年を生きる可能性が高いだろう。なにしろ「人生100年時代」なのだ。

だとすれば、「昔とくらべて……」と嘆くのではなく、「年をとっても頭を使って学ぶことはできる」ということに意識を向けることこそが大切なのではないか?

著者が、これまで「セカンドステージ」と呼ばれてきたこの期間をあえて「新現役世代」と位置づけているのも、そうした思いがあるからなのだろう。

勉強は自分自身を強くし、人生の選択肢を増やすものである。それに、何歳になっても学ぶことは可能だ。つまり勉強は、人生を豊かにしてくれる「最高の道具」であるということ。

新現役時代のキーワードになるのが「新しい自分」です。
この「新しい自分」の発見、構築に欠かせないのが、「勉強」なのです。(本書「はじめに」より)

そこで本書において著者は、さまざまなエピソードや具体例を交えつつ、「健康脳寿命」の維持に欠かせない「勉強」の方法を紹介しているのである。

とはいえ、決して難しい内容ではない。それどころか著者は、「トライの計画なんて、ゆるくてもかまわない」とすら断言している。たしかに、そこは重要なポイントかもしれない。

仕事であれ趣味であれ、なにか新しいことにトライしようとする際には綿密な計画を立てたくなったりもするものだ。

たとえば若いころ、「本気で勉強するぞ」と一念発起して計画を立ててみたものの、結局は3日目くらいで挫折してしまったというような経験をしたことはないだろうか? いわゆる「計画倒れ」の典型的なパターンである。

もちろん、高校受験や大学受験などの場合であれば、ときには計画に基づいたハードワークが必要とされることもある。そして、それが勝敗を決めることにもなるだろう。

しかし、新現役世代の勉強については話が別。可能な限りハードワークは避けるべきだということだ。

とくに趣味やライフワークは「修行」ではなく、「楽しい」「おもしろい」がメインテーマです。つづけることが大切なのですから、まずは「これならできる」という「ゆるいプログラム」を考えたほうが賢明でしょう。(本書197ページより)

「ゆるいプログラム」の場合、「〇〇すべき思考」は厳禁。自分が考えるキャパシティの6割程度を目標に勉強の計画をイメージするくらいがいいとのことなので、いってみれば腹8分目ならぬ「腹6分目」という感覚だ。

勉強を持続させるために必要なのは、なによりも達成感。そして、小さくともできるだけ多くの達成感を得るためには、課題のハードルを下げることが第一だという。たとえば、以下のように。

パソコンが苦手なら……
検索方法とワードだけはマスターして、エクセル、パワーポイントは次の目標に

英語で話せるようになりたいなら……
英検受験よりも、海外旅行で困らない程度の会話力を身につける

資格を取りたいなら……
一度で合格しなくても、何回目かに合格すれば御の字と考える
(本書199ページより)

なにより重要なのはこのように、まず成功確率を最優先すること。無理なく続けることこそが重要なのだから、必要以上にがんばりすぎず、こうした「ゆるい目標」を立てていけばいいのだ。

『70歳からのボケない勉強法』
和田秀樹 著
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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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