文/印南敦史

人から「その話、もう何度も聞いたよ」などと指摘されたり、昨晩に食べたものを思い出せなかったりすると、「もしや、自分は認知症なのでは?」と不安になるかもしれない。

だが医学博士である『脳が老化している人に見えている世界』(米山公啓 著、アスコム)の著者によれば、脳は成人後すぐに老化が始まるものであるようだ。

人の名前を覚える力は20歳前後が、顔を覚える力は30歳前後がピークなのだという。集中力はもう少しあとになるそうだが、それでもピークは40歳。いずれの力も、そのあとはだんだん衰えていくらしい。

ただし重要なのは、それにも個人差があるということ。若いのに脳が老化しているように見える人がいる一方、高齢なのにすごい記憶力を維持できている人もいるということだ。

だとすれば、その差はなんなのだろう?

いろいろな理由がありますが、私は生活習慣や環境が大きな要因になっていると考えています。
健康な生活を送ること、脳を刺激する活動を行うこと、ストレスを減らすことなどで脳の健康は保たれるのです。脳の老化は、自分の力でなんとかなるものなのです。
ただし、脳の老化を自分で遅らせるためには、まず脳が老化していることを自覚する必要があります。自覚することで、しっかりとした対処ができます。(本書「はじめに」より)

そこで本書では、「脳が老化する人がやっている習慣や行動」「脳の老化を防ぐつもりでやっている間違った習慣」などを紹介しているのである。

たとえば、もの忘れが気になってきたため「脳トレを始めた」という方も少なくないだろう。脳は「使わなければ老化する」という考えが広く浸透しているため、多くの高齢者が「ボケ防止に」とクロスワードパズルや数独パズルに取り組んだりするわけだ。

しかし、どうやらそれも正しいことではないようなのである。

スコットランドのアバディーン王立病院のロジャー・スタッフ博士とアバディーン大学の共同研究によると、「パズルに知力低下を防ぐ効果はない」という結果が報告されました。
この研究は、11歳のときに集団知能テストを受けた、1936年に生まれた498人を対象にしたもので、対象者が64歳の頃に調査を開始し、以後15年間、5回にわたって記憶力と処理能力のテストを重ねたものです。(本書94ページより)

その結果、パズル問題を解いていても知力低下は防げないことが明らかになったというわけだ。だとすれば私たちは、脳を活性化させるためになにをしたらいいのだろうか?

ヒントは、同研究チームの「知的刺激の高い活動を日常的に繰り返している人は、高齢者になってもある程度は知的に活発なこともわかった」という発言のなかにあるようだ。

2017年の「脳の健康に関する会議(GCBH)」では、「人生の後半期に脳の機能を助けるためには、脳トレよりも楽器の演奏やキルトのデザイン、庭いじりといった刺激的な活動を行うべきだ」との見解を示しています。(本書95〜96ページより)

「知的刺激の高い活動」などといわれると思わず身構えてしまうかもしれないが、なんのことはない。要は「手を動かして、脳が『美しい、楽しい』と感じることをしよう」ということである。

絵を描くのが好きなら、絵を描く。書道が好きな人であれば、文字を書く。音楽が好きな人は、ピアノやギターを演奏する。つまりはそのように、自分が好きなことをすればいいわけだ。

ちなみに「アートにも音楽にも、手芸や庭いじりにも興味がない」という方に対して著者が勧めているのは、意外や意外、テレビゲームである。

「テレビゲームは頭によくない」と刷り込まれてきた世代は、ゲームが「知的活動」だなんていわれれば冗談のように感じるかもしれない。だが重要なポイントは、「手を動かして、楽しむ」こと。

つまり両手の指を器用に動かし、目から入ってくる情報に合わせてコントローラーを操作するため、テレビゲームは脳の活性化につながるということだ。

ただし、同じことばかりを続けていたのでは脳への刺激も減ってしまう。そこで、意識せずにコントローラーが使えるくらいに慣れてしまったら、新しい別のゲームを始めてみるといいそうだ。

いろいろなゲームに挑戦して、どんどん脳を活性化しましょう。(本書97ページより)

これは、なかなか意外性の高い提案ではないだろうか?

ともあれ、「自分の脳が老化してしまうのでは……」という不安は、程度の差こそあれ多くの人が抱えているものだ。だから、そうならないようにさまざまな情報を仕入れ、習慣や食生活を変えようとする。

しかし、そのなかには上記のように、逆に脳の老化を進めてしまう習慣もあるようだ。だからこそ本書を参考にしながら、「脳の老化」についての正しい知識を身につけたいものである。


『脳が老化している人に見えている世界』
米山公啓 著
アスコム

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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