文/印南敦史

「耳が聞こえにくくなった」とか「耳鳴りがよくある」など、耳の悩みに悩まされている方も少なくないだろう。そうなると必然的に、「加齢のせいかな?」と考えるかもしれない。

だが『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』(木村至信 著、アスコム)の著者によれば、意外や耳は20代から衰え始めるのだという。

そして徐々に耳鳴りが始まって、50代から「聞こえにくい」と自覚する人が急増。75歳以上になると、約半数の人が難聴に悩むようになるのだそうだ。

問題は、そう自覚のある方の大半が「それほど困っているわけではない」「病院に行ってもよくならない」「補聴器をするしかないんだろう」とほったらかしにしてしまうこと。

とはいえ、耳鳴りも難聴も改善できる。事実、60〜80代の難聴世代も、40〜50代の予備軍も、90代になるという著者の母もまた、本書で紹介されているリセット法で聞こえやすくなっているようだ。

私は、「三度の飯より耳が好き」な耳鼻咽喉科のドクターです。難聴遺伝子、遺伝子解析研究のスペシャリストとして厚生省(現・厚生労働省)の難聴遺伝子研究員にもなり、アメリカの大学病院にも勤務しました。また、バンドのボーカルでもあります。つまり、「耳と音の専門家」なのです。
この本は、20年以上の診療経験を積み、のべ約1万人の耳を改善してきた私が提案する、簡単で効果的な「耳の取扱説明書」であり、「耳鳴りと難聴を改善する本」です。(本書24ページより)

ところで耳の疲れを感じている方もいらっしゃるだろうが、その原因のひとつに「環境」がある。絶えず大きな音のなかで生活していると、やはり耳が疲れてしまうわけだ。

しょっちゅうカラオケに行ったり、音楽を大音量で流している店や工事現場に勤めていたりすると、長時間大きな音にさらされることになります。こういう状態を「騒音曝露(そうおんばくろ)」といい、耳には大きな負担をかけます。(本書174ページより)

逆に、不快に感じるような汚い音であったとしても、音量が小さければ問題はない。だが音量が大きければ、耳にとっては騒音になってしまうのだ。

しかも同じ家に難聴の人がいると、家族までもが騒音曝露になることがあるのだという。難聴の人との会話では必然的に声が大きくなり、一緒に見ているテレビの音もまた大きくなる。そうしたなかでずっと暮らしていると、長年の蓄積が騒音曝露につながっていくわけである。

そこで、耳に「音疲れ」をさせないためにも、意識的にテレビやラジオの音は小さめにしたい。それでいきなり難聴が改善するわけではないが、大きい音で聞くことに慣れてしまうこと自体が問題なのだ。

同じように、イヤホンやヘッドホンの使い方にも気をつけたいところ。非常に便利なツールではあるが、長時間の使用は避けるべきだ。とくに流行の「ワイヤレスイヤホン」や「ゲーミングイヤホン」は、耳にかなり奥まで入るだけでなく、耳を密封して空気を通さないので注意が必要。

どうしてもイヤホンが必要なら、耳に入れるゴムの部分が柔らかく、外耳道を傷つけないものを選んでください。ただし、ゴムアレルギーのある人は、素材を確認して使ってください。
また、音量を下げて使えるノイズキャンセリングイヤホンのほうが比較的、安心です。逆にハイレゾ対応イヤホンは避けてください。(本書178ページより)

現在ではさまざまなタイプのイヤホンやヘッドホンが発売されており、魅力的なものも数多い。そのためデザインなどに引かれて選んでしまうこともあるだろうが、それ以前にまず意識するべきことがあるということだ。

もちろん、使用時の音の大きさにも気をつけたい。具体的には、1回1時間以内と決めて、耳を休ませることが大切であるようだ。要するに、日常生活のなかで意識することは少ないとはいえ、イヤホンやヘッドホンの使用によってそれだけ耳は疲れるのである。

また厳密にいえば、イヤホンではなくヘッドホンを使うほうがいい。望ましいのは、密閉性ではないタイプだ。

耳を塞がない「骨伝導ヘッドホン」や「ネックスピーカー」もいいでしょう。大谷翔平選手のようにノイズキャンセリングのヘッドホンならいうことはないでしょう。(本書179ページより)

なお、長時間使用を避けるべきであることにはもうひとつ理由がある。イヤホンを長く着けっぱなしにしていると、「外耳炎」になる可能性もあるのだ。外耳炎とは、耳の入り口から中耳につながる「外耳道」の炎症である。さらにステロイドや抗生剤の乱用をしていじり続け進行すると、真菌(カビや酵母など)が繁殖することがあるという。

真菌が増えると、外耳炎の症状が悪化して、かゆみ、耳の痛み、耳垢の異常増加、赤み、腫れ、そして難聴などが現れることがあります。
これが「外耳道真菌症」です。(本書180ページより)

外耳道真菌症になってしまうと、治療は長引いてしまいがち。とくに免疫の落ちている高齢者で鼓膜に穴が開いている場合、カビが脳や全身に移行して「敗血症」となり、まれではあるとはいえ最悪の場合には死に至る危険性も否定できない。

つまりはそれほど、耳の健康は大切なのだ。聞こえにくくなったとか耳鳴りがするなどの変化があった場合は、本書などを参考にしながら適切なケアを心がけたいところである。


『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』
木村至信 著
アスコム
1540円

文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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