文/印南敦史
「内臓を温めるべき」だといわれても、いまひとつピンとこないかもしれない。なにしろ目に見えない部分であるだけに、どうすればいいのかを具体的にイメージしづらいからだ。
しかし、『内臓を温めるという提案』(山口勝利 著、井上宏一 監修、アスコム)の著者によれば、手段や方法は決して少なくないようだ。しかもそれらは、「どんな健康法よりも、まずやってほしいこと」なのだという。
そもそも内臓が温かくなければ、どのような健康法を試したとしても、効果は期待できないらしい。しかも内臓が冷えていると、自律神経が乱れやすくなったり、代謝が落ちたり、内臓や免疫細胞の働きが弱まってしまう可能性もあるようだ。
人間の体には、すべての細胞や内臓をある一定の健康な状態に保てるように、微妙にバランスを保ちながら働かせていくための機能がある。それが生体恒常性(ホメオスタシス)だ。
このホメオスタシスを維持するために、内臓や代謝、体温などの体の機能を24時間体制でコントロールする役割をしている神経が、自律神経です。
健康な人であれば、体表面温度より内臓の温度(深部体温)が1〜2℃高く、37.2℃から38℃ぐらいが理想だと考えられています。
それよりも低いと、自律神経は適切な温度を保とうと働くのですが、ずっと低い状態のままだと、ホメオスタシスを維持しようとがんばり続けるため、負担がかかりすぎて、結果、うまく機能しない状態になってしまいます。
よくいわれる表現をすれば、自律神経が乱れた状態になってしまうのです。(本書「はじめに」より)
それは、心身を健康に保つ機能がうまく働かないということを意味する。そのため、便秘、頭痛、疲労、不眠、やる気が出ないなどの不調を起こしてしまうのだ。
だからこそ「内臓を温める」ことを意識すべきで、本書では具体的にその方法を「食事」「ストレッチ」「防寒術」の3分野に分けて解説しているのである。
ここでは「食事」に関するパートのなかから、ぜひ試してほしいと著者が訴える「ヒハツ」という香辛料に焦点を当ててみることにしよう。内臓を温めるための食事においては、これが大きな役割を果たすというのだ。
「ヒハツ」とは、「ロングペッパー」や「ピパーチ」「ヒバーチ」とも呼ばれるコショウの一種。3〜5センチくらいの、つくしの頭のような形をしたその実を乾燥させ、香辛料として使うのだという。
コショウと味は似ていますが、よりピリッとした辛味とエスニックな香りが食欲を増してくれます。
はじめて聞く人もいるかもしれませんが、インドでは紀元前から食生活に欠かせない香辛料であり、薬としても使われてきたそうです。
日本でも沖縄で生産されていて、琉球料理では「島コショウ」と呼ばれる香辛料として使われています。(本書51ページより)
この「ヒハツ」こそが究極の温め食材であり、食べるだけで十分に内臓温度を上げてくれるようなのだ。
だとすれば、どう摂取したらいいのかを知りたいところだが、その方法は意外なほど簡単。量的な目安でいえば1日わずか1グラム、小さじ1/2程度を摂取すればいいのだ。
もちろん量を考えれば、香辛料ならではの刺激は少ないかもしれない。しかし、それ以上に重要なのはやはり「効果」。毎日摂取し続ければ、内臓温度が上がっていくというのだから気になるところではある。しかも、摂り方もいたって簡単だ。
「ヒハツ」は何かにかけるだけで摂れます。
好みや相性はありますが、とにかく隙あらばかける。
おみそ汁やスープにひとふり、うどんにひとふり。
今までコショウをかけていたのを「ヒハツ」に代えてみるのもよいでしょう。
さらに、お茶や紅茶などに入れるなど、飲み物にかける。(本書68ページより)
コーヒーは体を冷やすといわれているが、どうしても飲みたくなったら「ヒハツ」をかけて飲めばいいわけだ。味が想像しづらいが、もしかしたらエスニックな風味が生まれるのだろうか?
また著者が行った調査の結果、とくにラーメン、チャーハン、回鍋肉などの中華料理に合うという意見が多かったようだ。とはいえもちろん、中華以外のさまざまな料理にコショウ代わりの香辛料として使ってみるのもよさそうだ。
肉の下味に使うと臭みも消えて、そんなに高い肉でなくとも、おいしさがグレードアップするのでおすすめです。(本書69ページより)
いずれにしても大切なのは、「ヒハツ」を摂る習慣をつくること。本書には「ヒハツ」を使った料理のレシピも掲載されているので、まずは内臓を温める最初の手段として、それらを試してみるのもいいだろう。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。