文・石川真禧照(自動車生活探険家)
フォーマルな催しや日常のショッピング用の車は所有している。家人が日常の足として使う車もある。もう1台、自分が遊べる車があってもいいかも。と、よからぬ(?)夢をかなえてくれる車を見つけた。
軽自動車だが、痛快この上ない車だ。ハテ、軽自動車といえば国産車だが、そんな車があるのかと思った人も多いかもしれない。
ケータハム SEVEN 170S。英国の2人乗りスポーツカーだ。エンジンはスズキ製の658cc、3気筒ターボエンジン。スズキの軽自動車用ターボエンジンを搭載した上で、ケータハム社が手を入れたことで、馬力は85ps、トルクも116Nmまで高められている。
前身となる車両は、英国では1970年代からケータハム・スーパーセブンとして製造、販売されていた。フォーミュラカーにフェンダーを取り付けただけのようなこの車は日本でも熱心な愛好家がおり、以前から少数が輸入されていた。日本での人気を知った本社が国内で軽自動車化することを考えついたが、軽自動車の車体は全長3.4m以下、全幅1.48m以下、全高2m以下という規格がある。ケータハム・スーパーセブンは全長3.1m、全幅1.57m、全高1.15mなので、全幅さえ加工すればサイズは問題なかった。そこでリアのフェンダーを約10cmだけ狭くし、1.47mにした。エンジンはスズキから供給を受けた。最初に完成したモデルはSEVEN 160と名付けられ、2018年に発表された。その後、発展型の170/170S/170Rが登場し、いずれも日本に少数が輸入されたが、即完売状態で本国の生産が追い付かず、幻の軽スポーツカーになっていた。
ところが、ケータハムは2021年に日本企業の子会社となり、生産体制も手直しを受け、今回、改めてSEVEN 170Sがカタログモデルとして登場した。
撮影も兼ねて試乗もしたのでレポートする。街中だけでなく、高速道路も走った。
まず、幌を立てた状態のSEVEN 170Sに乗りこむには、事前に屈伸運動とストレッチが必要かもしれない。キャンバス地とアクリルのドアを手でおさえながら、低くて狭い室内にもぐりこむ。5段マニュアル変速のクラッチを踏みこむが、シートのスライドを手前にしても、身長165cm以下では踏みこみが足りない。しかもペダルの間隔が狭いので幅広の革靴やスニーカーではペダルの踏み分けができない。レーシングシューズが理想というクルマだ。
幌を立てた状態での走行は周囲もよく見えず、閉所恐怖症の人には長時間走行は無理かもしれない。やはりこの手のスポーツカーはオープンにして走るに限る。幌の脱着は数分で完了。ドアも折り畳んでシートの背後に置ける。
フロントウインドのほかに遮るもののない運転席(と助手席)は、時速60キロあたりから風が巻きこんでくる。日差しや埃を避けるために、助手席も含めて帽子は必需品。パワーアシストのないハンドルは常に重い上に、ハンドルを切っても戻す力はないので、自分で戻さなければならない。これは街中でも高速走行でも同じ。ハンドルはロックからロックまでわずか1.8回転(通常は2~3回転)なので、手首の動きだけで俊敏にクルマは向きを変える。それでも時速100キロは出せる。乗り心地は硬いが上下の動きは抑えられているので、安定感は損なわれていない。直進性は確保されている。ブレーキは油圧ではなくダイレクトなので、しっかりと踏みこまなければ効かない。
快適かと問われれば、答えは“否”。でも楽しいかと聞かれれば、答えは“可”。このクルマを操るということは文字通り、スポーツ。全身を使い、動かし、停めることなのだ。
最新型は過去を知る人には高額な乗り物になってしまったが、所有し、運転して得られる悦びは、スポーツ好きには極上の時間となるに違いない。修行だと思って乗り回したい車だ。
ケータハム/SEVEN 170S
全長×全幅×全高 | 3100×1470×1090mm |
ホイールベース | 2225mm |
車両重量 | 440kg |
エンジン | 直列3気筒ガソリンターボ 658 cc |
最高出力 | 前:85ps/6500rpm |
最大トルク | 前:116Nm/後:4000~4500rpm |
駆動形式 | 後輪駆動 |
燃料消費率 | 未発表 |
使用燃料/容量 | 無鉛ハイオク/36L |
ミッション形式 | 手動5速 |
サスペンション形式 | 前:ダブルウイッシュボーン/後:マルチリンク式 |
ブレーキ形式 | 前:ディスク/後:ドラム |
乗員定員 | 2名 |
車両価格(税込) | 811万8000円 |
問い合わせ先 | ケータハム・ジャパン 03-5754-2227 |
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博