文・石川真禧照(自動車生活探険家)

フォーマルな催しや日常のショッピング用の車は所有している。家人が日常の足として使う車もある。もう1台、自分が遊べる車があってもいいかも。と、よからぬ(?)夢をかなえてくれる車を見つけた。

日本市場に再登場したケータハム SEVEN。この車のルーツは1950年代まで遡る。当時20代の天才設計者コーリン・チャップマンが、ロータスセブンというスポーツカーを制作、販売したのがはじまり。
デビュー当初は自分で組み立てることができるスポーツカーとして知られ、英国内ではレース好きの愛好家の人気を集めた。約20時間で組み立てられ、販売価格は40万円ほどだった。
日本で軽自動車登録するために、リアフェンダーの幅を狭くし登録認可を得ている。

軽自動車だが、痛快この上ない車だ。ハテ、軽自動車といえば国産車だが、そんな車があるのかと思った人も多いかもしれない。

ケータハム SEVEN 170S。英国の2人乗りスポーツカーだ。エンジンはスズキ製の658cc、3気筒ターボエンジン。スズキの軽自動車用ターボエンジンを搭載した上で、ケータハム社が手を入れたことで、馬力は85ps、トルクも116Nmまで高められている。

スズキの軽自動車3気筒ガソリンターボエンジンはケータハム社が独自にチューニングをしている。馬力は85psだが車両重量が440kgしかないので、加速力に不満はない。最高速はメーカー公表で約170km/hだが、これはドライバーの度胸しだい。マフラーはボディの外側に取り付けられている。

前身となる車両は、英国では1970年代からケータハム・スーパーセブンとして製造、販売されていた。フォーミュラカーにフェンダーを取り付けただけのようなこの車は日本でも熱心な愛好家がおり、以前から少数が輸入されていた。日本での人気を知った本社が国内で軽自動車化することを考えついたが、軽自動車の車体は全長3.4m以下、全幅1.48m以下、全高2m以下という規格がある。ケータハム・スーパーセブンは全長3.1m、全幅1.57m、全高1.15mなので、全幅さえ加工すればサイズは問題なかった。そこでリアのフェンダーを約10cmだけ狭くし、1.47mにした。エンジンはスズキから供給を受けた。最初に完成したモデルはSEVEN 160と名付けられ、2018年に発表された。その後、発展型の170/170S/170Rが登場し、いずれも日本に少数が輸入されたが、即完売状態で本国の生産が追い付かず、幻の軽スポーツカーになっていた。

幌とドアを外した外観。シートの着座位置は低く、吸っているタバコの火を路面で消せるほど、と言われた。

ところが、ケータハムは2021年に日本企業の子会社となり、生産体制も手直しを受け、今回、改めてSEVEN 170Sがカタログモデルとして登場した。

撮影も兼ねて試乗もしたのでレポートする。街中だけでなく、高速道路も走った。

まず、幌を立てた状態のSEVEN 170Sに乗りこむには、事前に屈伸運動とストレッチが必要かもしれない。キャンバス地とアクリルのドアを手でおさえながら、低くて狭い室内にもぐりこむ。5段マニュアル変速のクラッチを踏みこむが、シートのスライドを手前にしても、身長165cm以下では踏みこみが足りない。しかもペダルの間隔が狭いので幅広の革靴やスニーカーではペダルの踏み分けができない。レーシングシューズが理想というクルマだ。

黒い部分が幌のドア。その下の茶色の部分はボディなので、乗り降りはこれを乗りこえなければならない。当然だが室内は飲み物を置くスペースもない。

幌を立てた状態での走行は周囲もよく見えず、閉所恐怖症の人には長時間走行は無理かもしれない。やはりこの手のスポーツカーはオープンにして走るに限る。幌の脱着は数分で完了。ドアも折り畳んでシートの背後に置ける。

フロントウインドのほかに遮るもののない運転席(と助手席)は、時速60キロあたりから風が巻きこんでくる。日差しや埃を避けるために、助手席も含めて帽子は必需品。パワーアシストのないハンドルは常に重い上に、ハンドルを切っても戻す力はないので、自分で戻さなければならない。これは街中でも高速走行でも同じ。ハンドルはロックからロックまでわずか1.8回転(通常は2~3回転)なので、手首の動きだけで俊敏にクルマは向きを変える。それでも時速100キロは出せる。乗り心地は硬いが上下の動きは抑えられているので、安定感は損なわれていない。直進性は確保されている。ブレーキは油圧ではなくダイレクトなので、しっかりと踏みこまなければ効かない。

シンプルなインストルメントパネル。電子制御のものは一切なく、すべてアナログ式。ハンドルも“パワステ”ならぬ“オモステ”。
5段マニュアルミッション。ドライバーは、重いクラッチ、重いシフトレバーと戦いながら、重いハンドルを操作する。まさに全身を使ったスポーツ!
左端のボタンは、ホーン。中央のトグルスイッチはヘッドライト、右のスイッチはウインカー。すべてアナログ。
メーターもスポーツ走行に大切な油圧計や水温計はドライバー側に置かれ、燃料計は助手席の前にある。

快適かと問われれば、答えは“否”。でも楽しいかと聞かれれば、答えは“可”。このクルマを操るということは文字通り、スポーツ。全身を使い、動かし、停めることなのだ。

最新型は過去を知る人には高額な乗り物になってしまったが、所有し、運転して得られる悦びは、スポーツ好きには極上の時間となるに違いない。修行だと思って乗り回したい車だ。

もともと自分で組み立てるキットカーとしてスタートしているので、部品は基本的に取り外せる。ボンネットもひとりで運べる。

ケータハム/SEVEN 170S

全長×全幅×全高3100×1470×1090mm
ホイールベース2225mm
車両重量440kg
エンジン直列3気筒ガソリンターボ      658 cc
最高出力前:85ps/6500rpm
最大トルク前:116Nm/後:4000~4500rpm
駆動形式後輪駆動
燃料消費率未発表
使用燃料/容量無鉛ハイオク/36L
ミッション形式手動5速
サスペンション形式前:ダブルウイッシュボーン/後:マルチリンク式
ブレーキ形式前:ディスク/後:ドラム
乗員定員2名
車両価格(税込)811万8000円
問い合わせ先 ケータハム・ジャパン 03-5754-2227

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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