札沼線は、じつに不思議な路線だ。沿線に取り立てて大きな町があるわけでもないし、風光明媚は観光地があるわけでもない。けれど、札幌圏で最も北海道らしい風景を楽しめる路線と言えば、札沼線がそのトップに来るのではないだろうか。
新緑に包まれた山と残雪が、水を張ったばかりの水田に映る。どこにでもありそうな景色がひたすら続く快感は汽車旅ならでは、である。
もちろん、札沼線は「実用」という面では、はるか昔にその役目を終えているのだろう。でも、同じ廃止になるのでも、できるだけこの線を楽しんでもらってから、最期を迎えるほうがいいような気がしてならない。
この車窓を眺めるうちに、遺残から頭の中にある妄想が、またむくむくと頭を持ち上げてきた。ここに、ワイン&日本酒トレインを走らせることができないだろうか、というものだ。
じつは札沼線沿線は地元の材料を使った酒造りの蔵がある。一つは新十津川の酒蔵で、新十津川で取れた酒造好適米と増毛山地から流れ出す伏流水を使った日本酒を醸している。
また、鶴沼には素晴らしいワイナリーがある。かつて友人のフードライターO氏とここを訪れた。気候やコストの面で、日本でのワインづくりにはかなり懐疑的だった彼が、ここのブドウ畠を見て目の色を変えた。私自身はブドウについてまったく詳しくないので、彼の言葉に頼るが、「この畠はボルドーにも負けていないですよ!」「これだけの(質の)葡萄の木は向こうでもまちがいなく一級品です」
ワインの研究にフランスのワイナリーへ留学した彼に教えられて木を見ると、確かにがっしりした木の幹が地面に喰らいつくように生えている。このワイナリーで作られるワインは、価格もリーズナブルで評判も高い。
これらを楽しむ「ワイントレイン」や「酒トレイン」に乗ってみたい。もちろん一回きり、ではなくある程度定期的に走らせられないだろうか。何年もではなく期間限定でかまわない。JRにはできないだろうから、どこかの旅行会社が商品化してくれたら是非乗りに、いや、飲みに行く!
廃止になるから、ではなく、「楽しいから」と多くの人に感じてもらって欲しい。
そんなことを考えながら乗っていたら、あっという間に乗換の北海道医療大学駅に到着した。ディーゼルカーは次の石狩当別までだが、乗換列車がここから出るため一駅早い乗換だ。名残を惜しみながら下車をする。
再びの豊ヶ岡駅。板張りのホームは昔のまま。
園児たちは石狩月形駅でみんな下車。車内の皆を見送ってくれた。