文/鈴木拓也
公園や道端で、ネコの写真を撮る人をよく見かけるようになった。聞くと、写真をSNSにアップしてネット上の仲間と共有するのが目的だという。
写真を公開するとなると、最初は適当に撮っていたのが、やがて写真テクニックを磨きたいと考え始めるもの。そんな方におすすめの一冊を紹介しよう。
ネコ写真の技法については、何冊かの手引書が出ているが、今イチオシしたいのが『カラー新版 ネコを撮る』(朝日新聞出版)。著者は、動物写真家で、特にネコ写真の巨匠として知らぬ人なき、岩合光昭さん。
本書は、もともと2007年に刊行された同名の新書をオールカラーに改訂したもの。「ネコにアプローチ」、「撮影編」、「世界のネコ」、「野生のネコ」の4章立てで、大部分を占める最初の2章が、われわれアマチュアにとって実践的な内容となっている。また、岩合さんの撮った世界各地のネコの写真が随所に挿入され、ちょっとしたネコ写真集のおもむきもある。
岩合さんが、本書でいの一番にアドバイスするのは「早起きは三文の徳」。とにかく早朝から活動を開始することを勧めている。これには以下の理由がある。
写真というのは光と影が基本だ。光自体も朝の光の方がいいのはご存知だろう。当然、夕方のほうが空気中に塵などの遮蔽物が多くなるから、シャープネスという意味でも朝は絶好のシャッターチャンスだ。真っ昼間というのは、写真でもフラットになりがちでネコも動かない。
(本書19pより引用)
ネコは朝日を浴びるのが好きで、見つけやすいというのもある。岩合さん自身は、「日の長い5~6月なら、4時半には街へ出る。冬でも6時半には旅館を飛び出す」ほどの朝重視派。これをまねするのは容易ではないが、ネコ撮影の日はいつもより少し早起きして出かけるようにしたい。
さて、ネコを見つけたら、どうするか? いきなり駆け寄ってパシャリと撮ろうとするのでは、いい写真にならない。というのも、「あなたがネコを見つけるよりも先に、ネコはあなたをしっかり見定めている」から。岩合さんは、ネコを見つけるや拙速にことを運ぼうとする人をこう戒める。
カメラを構えていても、このヒトは自分にとって安全か安全じゃないかをしっかりと明確に見ている。このヒトは大丈夫。そうネコが判断したときに、あなたの側に近づいてくるし、写真を撮らせてくれる。
(本書37pより引用)
そんなネコに対する岩合さんのアプローチ術は、いったん通り過ぎてまた戻ってきて、相手の警戒心を解くというもの。子供がよくやるような、ネコへと突進するような近づき方はNG。また、望遠レンズを使えばネコを離れた距離から撮れるが、それでもネコはあなたを危険かどうか品定めし警戒しているという。
さて、無事ネコへのアプローチに成功し、撮影に臨むときの実践的なコツとして、岩合さんは、「角度(アングル)」に留意することを挙げている。
一般的にネコの目線に合わせてカメラを低い位置で構えるとネコらしく撮れる。子ネコだったら、さらに目の高さは低い。カメラを地面にくっつけるつもりで構えてみるといい。
(本書95pより引用)
これは、あくまでも基本中の基本。アングルを変えながら対象を観察し、どこから撮ればもっとかわいらしくなるかを追求することが必要とも。
* * *
ところで、岩合さんは「ネコを探すと健康になれる」と述べている。これはと思えるネコを見つけ当てるまで、ひたすら歩くからだという。カメラを抱えながら本格的なウォーキングをしているようなものなので、ネコ好きにとってはちょっとした健康法と言えそうだ。
【今日の猫まみれな1冊】
『カラー新版 ネコを撮る』
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20040
(岩合光昭著、本体1,000円+税、朝日新聞出版)
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。