父親の再発が発覚後、1年も経たずに帰らぬ人に。母親を元気にしたい、その思いですぐに家を引き払った
父親が戻ってきてからも実家で生活をしていた真世さんですが、妹も大学で実家を離れていたこともあり、父親から一人暮らしを提案されます。
「『一人暮らしを経験したほうがいい』と言われましたね。私も絶対に実家に居たいと思っていたわけではなく、出るタイミングを見失っていたから、ちょうどいいかなって。すぐに実家から3駅ほど離れた場所で一人暮らしを始めました。でも、犬に会いたくて、月に2度くらいは週末に帰っていましたけどね(苦笑)。その時には今まではそんなに話さなかった父親とも話すようになり、3人で会話のある食卓を小さい頃から初めて囲んでいた気がします」
そんな中、父親のガンの再発、転移が見つかり、手術できない段階だということがわかったそう。そして、そこから1年も経たずに父親は帰らぬ人となってしまいます。
「本当にあっという間でした。腹膜播種といった状態になり、最後にはQOL(生活の質)を維持するような延命処置をしていました。余命も知らされていましたし、覚悟もしていました。でも、実際に亡くなってしまうと……。母親の気落ちもとても心配でした。お葬式で親戚の人が噂話みたいな感じで、『あの落ち込みようじゃあ奧さんも長くないかも』みたいなことが耳に入って。絶対にそんなことはさせないと思いました」
真世さんはその後すぐに一人暮らしの家を引き払い、実家に戻ります。母親は最初の頃は落ち込みがひどかったそうですが、徐々に元気を取り戻していったと言います。「父親が亡くなってから今年で7年。今でも母親は元気にやっています。一度叔母から『家に戻ってきてくれたことが本当に嬉しかったよう。亡くなって少ししてからも寂しく思わない自分を不思議がっていた』と聞かされました。父親には申し訳ないけど、父親がいなくても平気なくらい元気になってほしかったから良かったです。やっと家族の役に立った気がしています」と真世さんは笑顔で語ります。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。