2024年9月、気象庁は、今年の夏は、平均気温が平年と比べ1.76℃も高く、2023年と並んで最も暑い夏だったと発表。

特に人口が密集し、ヒートアイランド現象もおこった東京では、残暑も厳しかった。9月18日に最高気温35.1℃の猛暑日(35度以上)となる。気象庁によると、1875年の観測開始以来、最も遅い猛暑日の記録を更新。これまで、最も遅い猛暑日は1942(昭和17)年9月12日だった。

東京23区内の一戸建てに住む武夫さん(65歳)は「東京の夏の暑さに耐えきれず、定年退職後に北関東に移住したけれど、定年後の移住は私には難しかった」と語る。

【これまでの経緯は前編で】

定年退職して帰宅すると妻から「別居したい」と提案される

定年退職の日はコロナ禍でしたが有志が会議室に集まり、温かい言葉で送り出してくれた。

「上機嫌で帰宅したら、カミさんがリビングで待っていた。“今までありがとう”と言われるのかな、と思っていたら“今日から別居したい”と言う。もうすでに、近くの1LDKの中古マンションを購入しており、あとは出ていくだけだとか。怒りを通り越して呆れちゃった」

別居先は、100m先のマンションであり、妻は「時々、夫の世話をつつ、別居する」という計画を10年以上かけて実行したのだ。

妻は「私たちのせいで会社を辞めたことは、申し訳ないと思っている。ただ、決めたのはあなたであり、私たちを悪者にして自己正当化をするのは間違っている」ときっぱり言った。

「血の気が上がってから、僕の心と体が自分や家族への憎しみで一気に染まる感じがあり、それがすっと引くと、体が冷たくなった。独立した息子2人はカミさんのほうが好きだから、この家に遊びにくることはなくなる。“これから一人になるんだ”という孤独みたいなものが、腹の底にずしっとくるわけです。あれは経験しないとわからない恐怖だった」

これは受け入れるしかないと思った武夫さんは、妻に「そうか」とだけ言った。

「カミさんもあっさり僕が承諾したから、驚いたみたい。で、カミさんは出ていったけれど、一人の家も悪くない。あのとき、コロナでいつ死ぬかわからないという雰囲気が世の中に流れていて、エンディングノートを書いてみました。そこに“この人生でやり残したこと”という項目があり、僕の場合“自然の中に住むこと”だった。そう思うと居ても立ってもいられなくなり、軽井沢の不動産屋さんに行き、移住の相談をしたんです」

季節は夏だった。東京全体が煮えるような暑さの中、新幹線で軽井沢へ。

「駅に到着したときに、スッと汗が引きました。懐かしい森の香りがして、“ここに住みたい”と思ったけれど、甘かった。予算は1千万円で、そのくらいの物件はあるかと思ったけれど、とてもその金額では手が届かない。不動産屋さんが“軽井沢と那須、河口湖近辺はとにかく高いですし、男性お一人に売ってくれる地主さんを探すのは難しい”と教えてくれました。そこで、軽井沢と気候が似た、日光や鬼怒川あたりで探すことにしたんですが、ここでも空振り。いい物件を見つけても、“男の一人暮らしには売りたくない”という持ち主さんもいました」

この年も暑く、武夫さんは熱中症で倒れ点滴を打つこともあった。「もう限界だ」と感じた8月中旬、「あなたに売ってもいい」と言ってくれる地主が現れた。北関東の涼しい地域にある住宅地だった。武夫さんは「これが最後のチャンスかもしれない」と移住することに決める。

「単線に乗って行く田舎くさいイメージの土地で、廃墟も多い。土地全体は気に入ってはいなかったんです。でも、家は森に囲まれていて、薪ストーブもある。値段は土地と建物合わせて700万円。リフォームに200万円かけ、“ここで第三の人生を過ごそう”というビジョンが見えた。東京の家については、自分で買った家を売りたくなかったんで、息子夫婦に住んでもらうよう頼み込みました。息子は都心志向が強く、渋っていましたが“家賃を払わなくていい”と言うと、しぶしぶ応じてくれた。この引越し費用100万円と、行政手続きのできるところは僕が担当しました」

移住も移動距離が長いので、引越しに40万円ほどかかかったという。ただ、11月の頭から始まった現地での一人暮らしは楽しかった。リフォームで断熱効果を高めたために冬も快適であり、東京に比べて生活費はかからない。

「ただ、仕事がない。金はあるとはいえ、減るばかりだから不安でしょ。だから就職活動をしたんです。定年退職した友人は、駐車場の管理人やホテルの清掃などの仕事をしていたので、やれると思っていたんだけど、年齢で切られる。断られるという心理的ダメージを、見知らぬ土地で、一人で受け止めなくちゃいけない」

また、移住先の交通は不便だ。電車は単線であり、高速道路のインターからも離れている。気軽に「遊びにきて」とは言えない。家族ともますます距離が離れて不安になっていった。

【地域の活動のスケジュールが最優先になる……次のページに続きます】

1 2

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2024年
10月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

「特製サライのおせち三段重」予約開始!

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店