美容師を続けたことで両親と会うきっかけが今でもある。そのきっかけをくれたのは父の言葉だった
実家に戻り、家でボーっとする娘に両親は何も言わなかったそう。当時まだ実家にいた堅実主義の妹でさえ気を使って優しかったと言います。
「あの時は時間だけがいっぱいあったから、色々考え込んでしまって。何をやってもできないと卑屈になっていました。そこから引きこもりになってしまったんです。毎日家の自分の部屋で過ごしていて、たまに買い物に出たりしていたくらい。でも、お金がないからすぐに家に戻って部屋にずっと籠っていました。そんな生活が1年ほど続いたんです。1年でやめた理由は、母親に『もういいかげん仕事してよ』と泣かれてしまったから……。そこまで追いつめてしまったんだと反省しました。それに父親からは『瑞穂にしかできないことが必ずある』と言ってくれて。何もできないと悩んでいたことに気づいてくれていたんですよね。もう一度美容師として就職することにしたんです。美容師になりたいと決めた時に両親から『就職したら髪を切る』と約束したことをまだ果たしていませんでしたから」
再就職はすんなり決まったそう。最初のトラウマがあったものの、再就職先の人間関係はスムーズに進み、美容師への考えが変わったと言います。
「最初は完璧にお金儲けの手段だと割り切っていました。私が持っている資格はこれしかなかったし。でも、お客さんが帰りに嬉しそうにしてくれる姿とかを見て、少しずつですが楽しさがわかるようになりました」
その後、瑞穂さんは別の美容院で今も美容師として働き、スタイリストとして現在の美容院の取り組みでもある訪問美容も行っています。瑞穂さんは当時を振り返り、「あの時美容師を辞めなくて本当によかったと思っています。今は両親や親族の髪を私が切っています。訪問美容をしているので、自宅でのカットも慣れたもんですよ。今もし違う仕事をしていたら、きっと両親に何も返せていなかった。髪を切ることがきっかけで頻繁に会うこともできるので。これからもずっと両親の髪は私が切り続けたいと思います」と笑顔で語ります。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。