関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、熟年夫婦、そして我が子や孫を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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今回の依頼者は、結婚30年、妻を召使いのように扱う夫と離婚したいという祥子さん(56歳)。夫は会社の経営者でカリスマ性がある強い人物ですが、妻に対して支配的。祥子さんは離婚を切り出したくても怖くて言えない。その武器として、浮気の証拠を得たい。確かに証拠があると、弁護士を立てての離婚がスムーズに進みます。
【それまでの経緯は前編で】
暴君の夫が、せっせと買うデパ地下の総菜
夫の行動を聞くと、平日の夜の帰宅時間はまちまち。19時に帰ってくることもあれば、24時を回ることがある。それでも、祥子さんに夕飯の支度を依頼したという。
「娘が生後1年、やっと寝付いたところにドタバタと帰ってきて、娘は泣きわめいたんです。それに対して“お前が悪いんだろう”と怒鳴り、“トンカツ”と一言。これは、トンカツを作れという主人の命令なんです。眠くて泣く娘を背負い、明るい台所に立ち、トンカツを揚げた。主人に出したら“うるさくて食べる気が失せた”と言ったんですよ」
だからこそ、どうしても離婚がしたい。そこで私たちは、金・土にかけて泊まりになることが多いと聞き、金曜の朝から調査をスタート。
祥子さん夫妻が住んでいるのは、湾岸エリアのタワマン。このタワマンは以前も別件での調査に入ったことがあり、スムーズに進んだという縁起がいい物件です。
9時30分に夫は出てきました。いつもは迎えの車が来るというので、私たちも探偵カーを用意していたのですが、歩いて駅まで向かいます。そこで、運転をペアの探偵に任せて、私は単独で尾行。
電車で東京駅まで行き、改札を出て近くの商業施設へ。ハイブランドのショップに入り、女性ものの15万円の財布を購入。それからティールームに行き、本を読みながらコーヒーを飲んでいます。夫は背が高く、服装も洗練されている。60歳と思えないほど、髪もふさふさしており、刻まれたシワもダンディです。
それから20分ほど経過すると、40代そこそこのスタイルがいい女性がやってきました。夫はニッコリと笑って、「何か飲む? それとも別のところに行く?」と明るい声で話しています。女性が「もう行こうよ。下でデリを買って食べよう」と言う。
夫は率先して総菜を選び、金を払っている。その姿はかいがいしいほどで、依頼者・祥子さんが言う暴君っぷりはみじんも感じません。その風景も動画で押さえました。
新幹線のグリーン車に乗ってからも、夫は女性をチヤホヤしている。おしぼりを開封し、拭きやすいようにたたみ、箸も割っている。普段、自分が祥子さんにされていることを、女性にしていたのです。
【女性はいったい誰なのだろうか……次のページに続きます】